英国にお住まいの読者の皆様ならもう、ほとんどの方がロンドン中心部に位置するバッキンガム宮殿を訪れたことがあるだろう。それでは、エリザベス2世がロンドン以外の場所で長期間暮らしを営む際に滞在する、その他4つの家の名前はすべてご存知だろうか。一般に離宮と呼ばれる、王室にとっての別荘のような役割を担うこれらの建物は、歴史の深さもさることながらその大きさは規格外。今回は、広大な敷地に構えるそれらの宮殿や邸宅をご紹介しよう。(本誌編集部: 長野雅俊)

ウィンザー城
現在も使用されている居城としては世界最大となる、約5万平方メートルの敷地面積を持つのが、イングランド中部のテムズ河沿いに建つウィンザー城である。
ウィンザー城は、エリザベス2世が住まいとして使用する居城のうちで、彼女が最も愛する場所として知られている。1952年、女王に即位した際に、週末を過ごす拠点とすることを決定。以来、王妃は公務のない日はほとんどの時間をこの地で過ごしているという。
またこの城が持つ900年の歴史は、世界最古である。イングランドを征服し、現王室の開祖となったウィリアム1世が築いた後、12世紀にはヘンリー2世が軍事施設として活用するために大幅な改築を施した。被害総額800万ポンド(約16億円)ともいわれる1992年の大火災では、100室以上が焼失する憂き目にも遭ったが、5年の歳月を費やして修復工事が完了。まるでテムズ河を見下ろすかのように、丘の上にそびえ立つこの城からの眺めは絶景である。
左)ウィンザー城の正門へと導く「ロング・ウォーク」は全長5キロ
右)晩餐会などが開かれる豪華絢爛な部屋が集まったステート・アパートメントに用意された王座
Windsor Castle
Windsor, Berkshire, SL4 1NJ
Tel | 020 7766 7304 |
開館時間 | 9:45-17:15 (11月~ 2月は16:15 まで) |
入場料 | 大人£14.80 (シニア・学生£13.30) |
行き方 | ロンドンから電車で30~ 60分、Windsor and Eton Central または Windsor and Eton Riverside Station で下車 |
入館料 | 大人£14.80、 シニア・学生£8.80、子供£8.50 |


東京ドーム1個分
東京都文京区に位置する、1988年に開場した日本初のドーム球場。グラウンドの両翼は100メートル、観客席の収容能力は4万5600人。

サンドリンガム館
イングランド東部ノーフォーク州の広大な敷地の中に佇んでいるのが、このサンドリンガム館。女王がクリスマスから 2月までの寒い季節を、ひっそりと過ごす私邸である。
この地で特筆すべきは、約24万平方メートルに及ぶ巨大なガーデン。また敷地は果樹園、湿地などを内包しており、個人宅というよりは、未開の村を丸ごと持っているかのような趣がある。
この広大な敷地は、19世紀の英国を統治したヴィクトリア女王の息子アルバート・エドワードが1861年に購入。道路や別荘、庭園などを次々と建設して理想の邸宅を築き上げていった。以後この邸宅は、王室メンバーの間で4世代にわたって利用されてきた。
またエリザベス女王にとっては、特別な思い出が残る場所でもある。彼女の父親に当たるジョージ6世が、1952年にこの館で逝去したのだ。以後、エリザベス女王は命日となる2月6日を、この邸宅で過ごすのが恒例となった。
左)代々の邸宅主がそれぞれの工夫を凝らし作り上げたというガーデン
右)ロマンチックなエドワーディアン調の装飾が施されたサロン
Sandringham House
Sandringham Estate, Sandringham, Norfolk, PE35 6EN
Tel | 01553 772 675 |
開館時間 | 11:00-17:00 |
入館料 | £9(シニア・学生£7、子供£5) |
行き方 | ロンドンから電車で約2時間でKing's Lynn駅へ。 同駅から41番のバスでSandringham Visitor Centre 前下車 |
website | www.sandringhamestate.co.uk |


周辺の敷地の大きさは……
桜島1個分
鹿児島県に属する島で、面積は約77平方キロメートル。活火山で形成されおり、「桜島の噴火」は同県のシンボルとなっている。

ホリールードハウス宮殿
世界遺産にも登録されたエディンバラの市街地を突き抜けるように敷かれた目抜き通り「ロイヤル・マイル」の行き止まりにあるのが、このホリールードハウス宮殿である。
12世紀にカトリック修道院として建築されたこの建物は、エディンバラが栄え首都となった際に、当時のスコットランドに王として君臨していたデービッド1世が宮殿として移り住むことを決めたと伝えられている場所である。またこの宮殿内では、16世紀のスコットランドを統治していた女王メアリーの夫が、妻と不倫関係を結んでいると誤解して秘書を殺害するという悲劇が生まれた。
一時的に王室の権力が弱まった共和制の時代に英国君主の足が遠ざかった時期もあったが、いまや女王がスコットランドにおける公式行事を行う場所となっている。特に「ホリールード週間」と呼ばれる6月末から7月初めにかけて、女王は毎年ここで8000人のゲストをもてなすという。
左)ホリールード宮殿とエディンバラ市街地を結ぶロイヤル・マイル
右)ホリールードハウス宮殿に隣接する巨大なホリールード公園
The Palace of Holyroodhouse
Edinburgh EH8 8DX Scotland
Tel | 0131 556 5100 |
開館時間 | 9:30-18:00 (11月以降は16:30まで) |
入館料 | £9.80(シニア・学生£8.80、 子供£5.80) |
行き方 | ロンドンから電車で約4時間半。Waverley駅から徒歩15分 |


周辺の領地の大きさは……
ハウステンボス1.7個分
長崎県佐世保市に作られた、オランダの街並みを再現したテーマパーク。面積は約152万平方メートル。年間約350万人の訪問客を受け入れている。

そびえ立つバルモラル城
ハイランドと呼ばれるスコットランドの奥地に位置し、標高1000メートル以上の山を7つ内包するという、スコットランドの大自然を体現したかのような私邸がバルモラル城である。エリザベス2世は毎年8、9月を、避暑を目的としてこの地で過ごしている。
女王の楽しみは、この大自然を生かした魚釣りや狩猟、そして乗馬といったスポーツ。また領地内には原生林やポニーの飼育場があって、約3000頭の鹿が生息しているというから、個人の敷地としては規格外であろう。
ヴィクトリア女王と夫のアルバート公が結婚して約2年半後、スコットランドを訪れた際に、2人はハイランドの美しさに魅せられた。そしてバルモラルの敷地が売りに出されているとの情報を得た2人は、一度もその地を訪れることのないまま購入することを決定したという。
普段は厳かな儀式を繰り返す女王が、馬の上やジープに乗って駆け回る自由を確保できる場所が、このバルモラル城なのである。
19世紀にヴィクトリア女王が魅せられたというハイランドの風景
Balmoral Estates Ballater
Aberdeenshire, AB35 5TB Scotland
Tel | 01339 742 534 |
開館時間 | 10:00-17:00 (年内はほぼ全日休館) |
入場料 | 大人£8、シニア£7、子供£3 |
行き方 | Aberdeen もしくはEdinburghから車でA93で Braemar方面へ18キロほど |
Website | www.balmoralcastle.com |


周辺の領地の大きさは……
洞爺湖1個分
北海道南西部に位置する湖。面積は約70.7平方キロメートル。2008 年には近隣で主要国首脳会議が開催された。
ロンドン中心に建つ英国随一の宮殿
バッキンガム宮殿
現在に至るまで実務が執り行われている、世界でも数少ない王宮の一つとして知られるバッキンガム宮殿。 ロンドン中心部に位置しながら、その規模は離宮に負けず劣らずかなり大きい。

バッキンガム宮殿の名物、衛兵交代のパフォーマンス
バッキンガム宮殿の内部
スウィートルーム |
19室
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来客用寝室 |
52室
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スタッフ・ルーム |
188室
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事務室 |
92室
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バスルーム |
78室
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宮殿スタッフ |
450人
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年間招待客 |
4万人
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王室メンバーが住む場所
チャールズ皇太子を始めとする、その他の王室メンバーのロンドンでの住居はバッキンガム宮殿の周辺に集中している。主なものは、以下の通り。