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Fri, 19 April 2024

労働党が新党首選挙を実施へ

総選挙敗北、ブラウン前党首の辞任で
労働党が新党首選挙を実施へ

総選挙の敗北を受けたブラウン前党首の辞任表明に伴い、労働党の新党首選がスタートした。前政権で共に大臣を務めていたミリバンド兄弟が揃って候補に名乗りを上げていることなどが既に大きなニュースとなっており、9月の投票結果発表まで、注目を集め続けることは間違いなさそうである。


労働党党首選のルール
立候補希望者は、労働党下院議員の12.5%(現在の議員数をもとに計算すると33名)の推薦を受けなければならない。労働党下院議員が、立候補希望者のうち誰を推薦するかを明らかにする期間は、今回の党首選では5月24日〜6月9日である。従って、6月9日までに33名の議員の推薦を受けることができなかった者は、立候補の資格を失う。33名以上の議員から推薦を受けた立候補者は、6〜7月に選挙キャンペーンを行う。投票期間は8月16日〜9月22日。「労働党下院議員、労働党欧州議会議員」、「労働党員」、「労働組合、社会主義系グループなど労働党加盟組織、労働党の関連組織」の3つのグループにそれぞれ全体の3分の1ずつの票が与えられる。投票の結果は、9月25日に労働党年次総会で発表される。


労働党党首選の立候補予定者プロフィール


David Milibandデービッド・ミリバンド(44)

ロンドン生まれ。両親はポーランド系ユダヤ人で、第二次大戦中、ナチスの迫害を逃れてベルギーから英国に渡った。父親はマルクス主義の研究者として著名な存在だったラルフ・ミリバンド(既に故人)。

オックスフォード大学で哲学・政治・経済学(PPE)を学び、米マサチューセッツ工科大学で政治学の学位を取得。シンクタンクなどで勤務した後、まだ労働党が野党だった1994年から、トニー・ブレア同党党首(当時)の上級アドバイザーを務め、ブレア派の重要人物として見なされるようになった。2001年の総選挙で下院議員に当選。以降、コミュニティー・地方自治担当相、環境・食糧・農村問題相、外務相などを歴任した。

ロンドン交響楽団のバイオリニストの女性と結婚しており、米国から2人の養子を迎えている。


Ed Milibandエド・ミリバンド(40)

デービッド・ミリバンド氏の実弟。兄のデービッドと同様、オックスフォード大学でPPEの学位を取得した後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で経済学を学ぶ。1997年、ゴードン・ブラウン財務相(当時)のアドバイザーに就任。兄がブレア派だったのに対し、弟はブラウン派の道を選んだ。

2005年の総選挙で、イングランド北部ドンカスター市内の選挙区から立候補し、当選。ブラウン政権が誕生した07年6月、内閣府相及びランカスター公領相に任命される。当時兄は既に外務相の職を得ており、兄弟で閣僚入りしたのは過去70年で初のケースだった。08年10月からはエネルギー・気候変動相を務めていた。

弁護士として働くパートナーの女性との間に一男あり。


デービッド・ミリバンド議員、エド・ミリバンド議員については、5月中に既に、33名を超える労働党下院議員からの推薦を受け、立候補の条件を満たしたことを明らかにしている。


ED Ballsエド・ボールズ(43)

ミリバンド兄弟と同じく、オックスフォード大学でPPEの学位を取得。更に米ハーバード大学で学んだ後、「フィナンシャル・タイムズ」紙の経済担当論説委員を務める。1994年、ゴードン・ブラウン影の財務相(当時)の経済担当アドバイザーに就任。これ以降、ブラウン氏の首相辞任まで、同氏に最も近い側近の一人として活躍した。2005年に下院議員に初当選。07年には児童・学校・家族相に任命される。ブラウン派のイメージが強すぎるため、今回の党首選では、前政権からの変化を望む党員らの支持を得にくいとの見方もある。また妻のイベット・クーパー氏(41)も労働党の国会議員。一時は英国初の「閣僚夫婦」として騒がれた。


Andy Burnhamアンディ・バーナム(40)

リバプールの労働者階級の家庭に育つ。80年代半ば、各地で行われていた炭鉱労働者のストに触発されて14歳で労働党に入党。ケンブリッジ大学で英語の学位取得後、テッサ・ジョウェル労働党議員のリサーチャーなどを経て、1998年よりクリス・スミス文化・メディア・スポーツ相(当時)のアドバイザーを務める。2001年に下院議員に初当選。ブレア派であったが、ブラウン政権でも要職を与えられ、2008年1月より文化・メディア・スポーツ相、2009年6月より保健相を務めていた。ミリバンド兄弟などに比べて知名度が低く、政治家としても幅広い経験に欠けるため、党首立候補はまだ早いとの声もある。


Diane Abbottダイアン・アボット(46)

ロンドン出身。両親はジャマイカ系移民。父は溶接工、母は看護士だった。ケンブリッジ大学で歴史を学んだ後、グレーター・ロンドン・カウンシル(GLC)(*)の広報担当官、ロンドン・ランベス区の広報局長などとして勤務。1982年、ロンドン・ウェストミンスター区の区議会議員に当選。87年にロンドン・ハックニー区の選挙区から下院議員選挙に出馬、当選。英国初の黒人女性の国会議員となる。 BBC1で放映中の「ディス・ウィーク」への出演でも知られる。2003年、ブレア首相(当時)が子供を私立学校に通わせていることを批判する一方で、自分の息子も私立校に入学させていたことが発覚し、批判を浴びたことがある。

(*)グレーター・ロンドン・カウンシル(GLC)とは、1965〜86年まで設置されていたロンドンの広域自治体。


John Mcdonnellジョン・マクドネル(58)

労働党左派の代表格であり、最近まで、同党の左派下院議員のグループである「社会主義キャンペーン・グループ」で会長を務めていた。また現在、労働党の社会主義系グループ「労働代表会議」の会長である。一度就職した後、夜間学校でAレベルを取得し、ブルネル大学及びバークベック大学に進学。ロンドン・カムデン区、ロンドン自治体連合などで勤務後、1980年代には、GLCで副リーダーを務めていたが、リーダーだったケン・リビングストン氏(後のロンドン市長)と衝突したことが原因で同職を離れた。97年より下院議員。2007年の労働党党首選で出馬を試みたものの、議員からの推薦が立候補に必要な数に届かず、断念した。



数カ月にわたる選挙期間

労働党の執行機関である「全国執行委員会(NEC)」は5月18日、同党の党首選挙の日程を発表した。それによると、6、7月に候補者が選挙キャンペーンを行った後、8月中旬から1カ月以上にわたって投票が実施される。投票結果は、9月下旬に開催される労働党の年次総会で明らかにされる。

随分と選挙期間が長いように感じられるかもしれないが、これは、13年ぶりに下野した労働党にとっての新党首選びの重要性を反映していると言えるかもしれない。政党の党首選出において、事を急ぐべきではないことは、過去の教訓が示している。労働党が圧勝し、ブレア政権が誕生した1997年の総選挙後、保守党は、メージャー党首(当時)の後継者選びを急ぎ過ぎ、選挙からわずか6週間後にウィリアム・ヘイグ氏(現在の外務相)が新党首に就任した。しかしヘイグ氏は、期待されたような指導力を発揮できず、同党では、性急な党首選びは間違いであったとの認識が広まった。その後、2001年に続いて2005年の総選挙でも政権復帰を果たせなかった保守党は、今度は党首選のために長期の選挙期間をもうけ、その結果、デービッド・キャメロン氏が新党首に選ばれた。キャメロン氏の選出は、当初の大方の予想を裏切るものだったが、これが保守党の近代化と支持回復、そして今回の選挙での勝利へと繋がったのは、ご存知の通りである。こうした背景もあって、労働党が今回、党首選に数カ月を費やすことは、選挙の敗因と党の将来について十分に議論を行い、候補者を吟味することを可能にする賢明な決断であるとの評価が多いようである。

推薦期間短いとの批判

その一方で、労働党の党首選日程については、知名度の高い議員にしか立候補の機会を与えず、不公平であるとの批判もあった。労働党のルールでは、党首への立候補には、同党の下院議員の12.5%(現在の議員数で計算すると33人)から推薦を受けることが条件となっている。しかし、NECが当初発表していた今回の党首選の日程では、下院議員による立候補者の推薦期間が5月24日から同27日までと非常に短かった。そのため、一部の立候補希望者から、議員の推薦を獲得するための十分な時間が与えられていないとの声が上がり、NECは、推薦期間を6月9日にまで延長した。しかしそれでも、黒人女性のダイアン・アボット議員及び党内左派のジョン・マクドネル議員については、議員からの推薦が立候補に必要な数に満たない可能性が濃厚であると見られており、「40代白人男性、オックスブリッジ*出身、元大臣」という似た者同士の戦いになることが予想されている(付け加えれば、この共通点は、「元大臣」を除けばすべて、キャメロン首相とクレッグ副首相にも当てはまる)。

*オックスフォード大学及びケンブリッジ大学の併称。

信頼回復と党再建が課題

立候補希望者たちの多くは、労働党の総選挙敗北の原因を、「人々の声に耳を傾けなくなり、昔からの支持者を失ったこと」であると述べている。誰がなるにせよ、労働党の新党首には、人々の信頼回復と党の再建という難題が待っているが、それに果敢に取り組める優れた人物が新党首に選ばれることを期待したい。

National Executive Committee

労働党の執行機関。「全国執行委員会(NEC)」などと訳される。労働党の全体的な方針及び政策策定プロセスの監督などをその役割とする。今回の党首選挙はNECが運営している。NECのメンバーは、労働党の下院議員、欧州議会議員、地方議員、労働党の関連組織である労働組合などの代表者等で構成される。80年代には、党の政策策定に重要な役割を担っていたが、現在この機能は、ブレア政権時代に設置された労働党内の別の組織である「全国政策フォーラム(National Policy Forum)」が受け継いでいる。

(猫)

 
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