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Tue, 19 March 2024

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BBCドラマ「コール・ザ・ミッドワイフ」に
込められたメッセージ

日曜日の夜、筆者はBBC放送の人気テレビ・ドラマ「コール・ザ・ミッドワイフ(Call the Midwife)」に釘付けになる。ミッドワイフとは助産婦さんのこと。1957年、低所得者層の住民が暮らすロンドン・イーストエンドの修道院にやってきた当時22歳の看護婦ジェニファー(ジェニー)・リーさん(1935~2011年)の自伝が基になっている。母性、出産が物語の大きなテーマだ。

ロンドン郊外で恵まれた教育を受けたジェニーがてっきり小さな民間病院と思い込んで赴任した修道院では、出産を手助けする修道尼や助産婦がてんてこ舞いしていた。家庭内暴力に苦しむ妻、偏見と差別に苦しむ黒人女性、違法中絶、戦争のトラウマを抱える夫など、様々な人間ドラマが織り成される。妻子ある男性との不倫を経て、ようやく新しい恋人に出会った主人公ジェニーは幸せの絶頂だった。しかし、恋人が不慮の転落事故で急死してしまう(2月9日放送)。「英国ドラマにハッピーエンドはない」とよく言われるが、絶望するジェニーの姿に涙ぐんでしまった。圧巻は毎回異なる出産シーンだ。大きなお腹を抱えた女性が汗をにじませながら、うんうん、いきむ。叫ぶ。逆子だったり、へその緒が胎児の首に巻き付いていたり、色々な試練が妊婦と助産婦を襲う。妊婦が出産に一番適したポジションをとる。妊婦の最後のひと踏ん張りで、新生児が出てくる。助産婦が頭を両手で支える。ところどころ血がこびりついた新生児が小さな声で泣き始める。生命の誕生って「すごい」と改めて感動する。

 

NHK経営委員の長谷川三千子・埼玉大学名誉教授は産経新聞のコラム「正論」(1月6日付)で「ことに人間の女性は出産可能期間が限られていますから、その時期の女性を家庭外の仕事にかり出してしまうと、出生率は激減するのが当然です」と論じ、人口減対策として「性別役割分担」を強調したことが大きな波紋を広げた。

ソ連崩壊や米国の衰退を予測した著名なフランスの家族人類学者エマニエル・トッド氏は「女性の識字率が上がれば、出生率は下がる」ことを人類普遍の傾向としてとらえた。しかし、英国やフランス、北欧などの先進国で、女性が一生の間に出産する子供の平均数を表す「合計特殊出生率」が回復しているのをご存知だろうか。

世界金融危機後の景気低迷で「産み控え」が心配されていたが、世界銀行の統計によると、英国では1997年の1.69を底に2011年は1.98。昨年のロイヤル・ベビー誕生の影響で「2」達成の期待が膨らむ。フランスでは93年の1.73から11年には2.03まで上昇した。「2」を超えると人口減は回避できると言われている。

「女性先進国」の北欧はどうだろう。11年時点でスウェーデンは1.90、ノルウェー1.88、フィンランド1.83。片やドイツは1.36、ギリシャ1.43、イタリア1.41。欧州における出生率の格差をどう見るか。多産のイスラム系移民の増加、育児支援、産休制度などの影響はもちろんあるものの、女性の社会進出度とも密接に関係しているように筆者は思う。

メルケル首相は女性だが、ドイツでは「女性は教会、台所、子供を大切にすべきだ」という風潮が今でも強く残る。ドイツ人女性は家庭か、仕事かのジレンマに悩まされている。ギリシャ、イタリアも女性の社会進出に対する考え方が保守的だ。長谷川教授の説が正しいのなら、ドイツやギリシャ、イタリアの出生率は英仏、北欧のそれを上回っていなければならない。また、日本では非正規雇用が増え、既に夫の収入だけで妻子を養う経済構造ではなくなっている。夫婦共働きでも子供を育てていけるような社会をつくっていくのが正しい方向性だ。

 

妊娠中絶や避妊薬など、「産む性」の否定がジェンダー・フリーを意味した戦後とは異なり、ジェンダー・フリーが「産む性」を保障する時代を迎えつつある。日本が夫は会社、妻は家庭という封建的な家族形態に逆戻りするのか、それとも英仏、北欧の持続可能型を目指すのか。そんな無意味な問いを発することが日本では「表現の自由」と考えられているのだろうか。日本の合計特殊出生率は05年の1.26で底を打ち、12年には1.41まで回復している。仕事も結婚も出産も家庭もが女性にとって当たり前になる社会が最高の少子化対策だと思う。

 
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参照:「サン」紙、「デーリー・メール」紙ほか

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