instagram Facebook ツイッター
早稲田アカデミー 夏期講演会 in ロンドン
Tue, 04 August 2020

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

首相顧問が新型コロナで規則違反?辞任問題で揺れる保守党 - 政治家を陰で支える存在が、逆に足を引っ張る形に

5月末、ラフな格好の細身の人物が新聞やテレビのトップ· ニュースになりました。ボリス·ジョンソン首相の上級顧問ドミニク· カミングス氏です。「デーリー·ミラー」紙と「ガーディアン」紙はカミングス氏が新型コロナウイルス感染の拡大を阻止するために出された外出禁止令に違反したと報道し、政界は大騒ぎとなりました。

報道によると、ロックダウン開始後の3月下旬、カミングス氏は新型ウイルスの感染症状が出ていた妻と4歳の息子を連れて、ロンドンの自宅から両親がいる北東部ダラムまで車で約400キロ移動。4月には近郊の観光地を訪問していました。当時、同居していない家族との面会や車での移動は制限され、外出できるのは食料や医薬品などの必需品購入、あるいは治療か運動のため(1日1回のみ)だけでした。ロックダウン政策を立案する側にいるにもかかわらず、規則を守らなかった点が問題視されました。国民には規則を遵守するように言いながら、自分は規則を恣意的に解釈してもよいのか、という問いです。ジョンソン首相は「規則違反ではなかった」として次に進もうとしましたが、与党·保守党内からもカミングス氏の辞任を求める声があがりました。調査会社「ユーガヴ」の調べでは、有権者の71%がダラム近郊の観光地訪問を「規則違反」とみていることが分かりました。

カミングス氏は首相の「特別顧問」(special adviser)の一人で、上級顧問の位置にいます。1971年11月にダラムで生まれ、オックスフォード大学に進学。ロシアに数年間住んだ後、政界で働くようになりました。英国のユーロ参加に反対する運動のキャンペーンを統括し、2002年には当時保守党党首だったイアン· ダンカンスミス議員の戦略チームに参加。07年から14年まではマイケル· ゴーブ議員の特別顧問として活動しました。16年の欧州連合離脱をめぐる国民投票では、離脱派のスローガンとなった「テイク· バック· コントロール」を考案し、公式の離脱運動「ヴォート· リーヴ」(Vote Leave)の勝利に大きな役割を果たしました。昨年12月の総選挙で「ブレグジットを実行させよう」というスローガンを考案したのも同氏だそうです。

首相を陰で支えるはずの顧問役が世論の批判の的になり、辞任せざるを得なくなった例は過去にもいくつかあります。トニー· ブレア政権時代(1997~2007年)のアラスター· キャンベル氏(官邸の首席報道官、後に報道·戦略局長)がその一人です。同氏は元大衆紙記者で、世論形成の敏腕ぶりから「スピン·ドクター」(情報を操作して人々の心理を操る専門家)と呼ばれました。政策決定、演説の草稿書き、問題処理などあらゆる面で政権を支えましたが、2003年8月、辞任を発表。同年3月開戦のイラク戦争に至る過程を独立調査委員会が調査するなかで、前年9月に政府が発表したイラクの大量破壊兵器に関する報告書でキャンベル氏がイラクの脅威についての表現を強めるよう指示していたことや、破壊兵器についての疑惑を報道したBBC記者の取材源のリークに関与していた疑いが浮上し、辞任コールが無視できないほどになってしまいました。

デービッド· キャメロン首相(2010~15年)の場合は、やはり元大衆紙出身のアンディ·コールソン氏が首相報道官となっていました。「ニューズ· オブ· ザ· ワールド」紙(現在は廃刊)の編集長だったときに、記者が盗聴取材をしていたことで引責辞任した人物ですが、官邸入りした後、「ガーディアン」紙の調査報道で、組織的な盗聴取材をしていたことが分かり、2011年1月に辞任しました。

直近では、2017年6月、総選挙で保守党が大敗したことを受けて、メイ首相の共同首席補佐官2人が辞任しています。カミングス氏の去就はジョンソン首相が握っています。同氏は非難の嵐を乗り切ることができるでしょうか。

キーワード

Special Advisers(特別顧問)

閣僚の仕事を補助し、政治的助言を与える、臨時雇いの公務員を指す。「Spads」と略されることも。通常の公務員は政治的中立性を求められるが、特別顧問はこれとは異なる視点を閣僚に提供する。昨年11月時点で約108人の特別顧問が省庁に勤務(内閣府)。官邸には43人。年収は約4万ポンド(約528万円)~14万5000ポンドで、ドミニク· カミングス氏の給与は9万5000ポンド~9万9000ポンド。

 
  • Facebook

バナー バナー バナー バナー

コロナに負けるな!応援フェア
ロンドン・レストランガイド ブログ