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UKchiken
Thu, 25 February 2021

第9回 King's Norton - Woottonn
しみじみと旅愁に浸る

4 November 2010 vol.1274

カヌー旅行の航路 - Knowle - Birmingham

ロビン・フッドが隠れ住むような不気味な森

7月5日。漕ぎ出すと同時に、深い樹林帯に入った。日が差し込まないから、寒い。伝説の義賊ロビン・フッドが配下を引き連れ、藪をかき分けて今にも飛び出してくるのではないかと思うほどの不気味な森が続いていく。それでも時折、緑が切れて小さな橋が現れるのが救いとなる。いずれもアーチ型にレンガを組んだ古い橋だ。橋の頂上部分には更に別の橋が架かっていて、そこには左右に開く鉄の板が渡してある。電動であるわけがないのだが、どうやって開閉するのだろうか。そして、あの高さがなければ通り抜けることのできない船がかつて行き来したことがあったのだろうか。疑問は尽きない。

1時間程漕いで、ロック(閘門 - こうもん)の連なりが始まった。地図を見てみると、2キロ程の間に23カ所も密集しているから、当然トゥパス(側道)に出て、まとめて歩きだ。そのトゥパスは花の道になっていた。野花ではなくて、運河に沿って並ぶ家々のガーデニングの花々だ。3年前、欧州随一の花の運河という、アムステルダム近くのヴェヒト運河を漕いで行った日のことが思い出される。紫陽花が艶やかに咲き誇り、風車が心地良く回っていた。

英国の盆踊りのようなものなのだろうか 写真:吉岡嶺二
英国の盆踊りのようなものなのだろうか
写真: 吉岡 嶺二

ロックの扉の開閉で一騒動

再び漕ぎ進んで、また別のロックに差し掛かった。今度は、ウィンダラスと呼ばれる道具を使ってロックの扉を開閉することでこの難所を越えることにした。記念の使い締めのつもりだったのだが、これが思わぬ事故になるところだった。ロック内に入り、前方の扉を開いてから、排水状況を見ていた。そして、後方を振り返ってみた。なんとボートを係留させるためのロープを、遊びを取らずに結んだままにしておいたのだ。すんでのところで間に合ってロープを緩めたのだが、もう少し気付くのが遅れて排水後に水位を著しく下げたロックの中で宙吊りになってしまったら、ロープを解くのも難しい。危なかった。

後刻歩いてロックに差しかかったときのことだが、バランス・ビーム(ロックを開くための木製の押し棒)を押していた婦人が、一緒にお茶でもと誘ってくれた。そのときに出してもらった、クッキーを添えたアフタヌーン・ティーがおいしかった。休憩の後で、そのご婦人を乗せたナロー・ボートの船長を務めるご主人と並んで写真を撮ってもらう。ナロー・ボートの舵棒を撮った思い出の1枚ができた、印象深いロックとなった。

思えば似たり故郷の野辺

夕刻、吊り橋を抜けて小さなアクアダクト(運河が通る橋)を過ぎた先に、絶好の寝場所が見付かった。そのそばには、今回の旅では最後の晩餐をいただく場所となるパブ「ナビゲーション・イン」があった。食事の後、パブの駐車場でおじさんおばさんたちが、組ごとに異なる揃いの民族衣装を着け、笛太鼓に合わせて、代わる代わる踊っているのを見た。日本の盆踊りのように村人が楽しみにしている年中行事なのだろう。

8時を過ぎてもまだ日は高いが、水面はひっそりと静まって、木々の影も水中に溶け込んでしまった。「夕空晴れて秋風吹く」と、思わず唇に歌が出た。そして、「思えば似たり故郷の野辺」と続く。さらには、「幾年故郷来てみれば」や「庭の千草も虫の音も」と口ずさんだ。明治の詩人たちは、実際にこんな情景を見たのだろうか。しみじみと旅愁に浸っての時間が過ぎた。あと一日だ。


 
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吉岡 嶺二(よしおか・れいじ)
1938年に旧満州ハルビンに生まれる。早稲田大学卒業後、大日本印刷入社。会社員時代に、週末や夏休みを利用して、カヌーでの日本一周を始める。定年後は、カナダやフランス、オランダといった欧州でのカヌー旅行を行っている。神奈川県在住。72歳。
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