ニュースダイジェストの制作業務
Fri, 20 March 2026

英国各地の風景とともに味わう 声に出して詠みたい英国の詩

「詩を詠む」というと、とても高尚な行為のように聞こえるかもしれない。しかし本来、詩は音楽と同様に、特別な知識がなくても気軽に楽しめるもの。今回は、長い冬を越えて、やっと迎えた英国の春を謳った詩の数々をご紹介する。美しい詩の一篇を暗誦して、英国人を驚かせよう。

*英詩の名作というと、日本では古語や独特の韻文調を使って訳されることが多くありますが、本特集では出来るだけ多くの方に英詩の魅力を知ってもらおうと、原典を一部省略した上で、現代語に近付けた編集部オリジナルの口語訳を掲載しています。ここで紹介した詩の多くは、既に第一人者が手掛けた名訳が多数そろっていますので、ご興味のある方はぜひそちらもご参照ください。

詩は「言葉の音楽」

英国の詩には、文字として読むだけでなく朗誦の伝統があり、声に出して味わうことを前提に発展してきた歴史がある。中世からルネサンス期にかけて、詩は宮廷や教会、家庭で朗誦され、韻やリズム、抑揚は意味や感情と一体化する装置として工夫された。こうした言葉の音楽性を重視する伝統は、英国の演劇の発展とも深く結びついている。

シェイクスピアの時代、観客は劇を「見に行く」(see a play)のではなく「聞きに行く」(hear a play)ともいわれていた。精巧な舞台装置がほとんどない代わりに、詩的な言葉の響きやリズムそのものが、現代のCGIのように観客の想像力を刺激し、壮大な情景を描き出していたのである。シェイクスピアやジョン・ミルトンの弱強五歩格の韻律も、登場人物の心理や物語の動きが声となって伝わるよう設計されており、声に出すことで詩の魅力がより生き生きと響いてくる。

この伝統は19世紀に大ブームとなった庶民向け朗読会「ペニー・リーディング」にも受け継がれ、詩や物語は聴衆の前で朗読される娯楽として広く楽しまれた。今日でも英国では「ナショナル・ポエトリー・デイ」のように詩を声に出して楽しむ行事が行われている。さらに学校教育でも、詩を暗唱したり抑揚をつけて朗読したりする学習が重視され、言葉の響きやリズムを音楽のように味わうことが詩の理解につながると考えられている。また、詩人自身が朗読会で自作を読む文化も盛んで、詩は今もなお声を通して生きる文学として親しまれているのだ。

Stratford-upon-Avon

Stratford-upon-Avon春の日が差すストラトフォード・アポン・エイボンにあるシェイクスピアの生家

Shakespeare's Birthplace
Henley Street, Stratford-upon-Avon CV37 6QW
TEL: 01789 204 016
www.shakespeare.org.uk

Spring

When daisies pied, and violets blue
And lady-smocks all silver-white,
And cuckoo-buds of yellow hue
Do paint the meadows with delight,
The cuckoo then, on every tree,
Mocks married men,
for thus sings he:
'Cuckoo!
Cuckoo, cuckoo!'

ヒナギクの花がまだら色になってきて、
スミレは青く
タネツケバナは白銀色になり
ラナンキュラスの花が
牧草地を黄色に染め上げるとき、
木々の上にいるカッコーたちが
「カッコー、カッコー、カッコー」と
鳴いて、妻帯者たちを冷やかすんだ。

シェイクスピア

William Shakespeare
ウィリアム・シェイクスピア
1564-1616

イングランド中部ストラトフォード・アポン・エイボンに生まれる。エリザベス朝時代の屈指の劇作家として四大悲劇などの名作を執筆。シェイクスピアが手掛けた戯曲の多くは、詩の定型を用いて書かれた。ここで紹介したのは、喜劇「恋の骨折り損」からの一篇。

London

London春になり多くの花が満開のときを迎えたロンドンのキュー・ガーデンズ

Kew Royal Botanic Gardens
Kew, Richmond, Surrey TW9 3AB
TEL: 020 8332 5655
www.kew.org

Pipa's Song

The year's at the spring,
And day's at the morn;
Morning's at seven;
The hill-side's dew-pearl'd;
The lark's on the wing;
The snail's on the thorn;
God's in His heaven-
All's right with the world!

ピパの歌

ある春の朝、午前7時。
ここから見える丘の斜面は
露でいっぱい。
空にはヒバリが飛んでいて
カタツムリは木の枝の上を這っている。
雲の上には、神様が隠れているのかな。
やっぱり私は、この世界が大好きなんだ。

ロバート・ブラウニング

Robert Browning
ロバート・ブラウニング
1812-1889

ロンドン生まれの桂冠詩人。さまざまな主観を客観的に語るための「劇的独白」という手法を生んだ。この詩は、「ピパが過ぎゆく」という劇詩の中の一篇。「ピパ」は、同作品に登場する少女の名前。日本では「春の朝」という訳題で知られる。

Lake District

Lake District湖水地方の玄関口にあたる、カンブリア地方のウィンダミア湖を望む

Windermere, Lake District
www.visitcumbria.com

Daffodils

I wander'd lonely as a cloud
That floats on high o'er vales
and hills,
When all at once I saw a crowd,
A host of golden daffodils,
Beside the lake, beneath the trees
Fluttering and dancing
in the breeze.

水仙

まるで谷や丘の上を浮かぶ雲のように
僕は彷徨っていた。
そうしたら突然、金色に輝く
水仙の花を見つけたんだ。
それは湖の側で、木々の下で、
そよ風に吹かれながら揺れたり、
踊ったりしていた。

ウィリアム・ワーズワース

William Wordsworth
ウィリアム・ワーズワース
1770-1850

イングランド北部の湖水地方に生まれる。同地域の自然を自身の思いと重ねて描いた作品を数多く残したため、「湖水詩人」と呼ばれた。本作は英国の春の訪れを告げる花、水仙を謳ったもので、英国人であれば誰もが知るほど有名な詩の一つ。ワーズワースの代表作となった。

Ayrshire

Ayrshireエアシャー東部にあるルードン・ヒル

Loudon Hill
Loudon Hill, East Ayrshire, Scotland

Composed in Spring

Again rejoicing Nature sees
Her robe assume its vernal hues,
Her leafy locks wave
in the breeze,
All freshly steep'd in morning dews

春の曲

喜びに満ちた大自然が
いよいよ春の色を帯びてきた。
葉っぱたちはそよ風に揺れて、
そしてさわやかに朝露を浴びた。

Robert Burns

Robert Burns
ロバート・バーンズ
1759-1796

スコットランド南西部エアシャー生まれ。詩の中にスコットランド語を多く用いたことに加えて、古くから伝わる同地の民謡の普及などにも努めたことから、スコットランドでは絶大な支持を誇った。バーンズが改作を手掛けた民謡の中には、日本でも有名な「蛍の光」の原曲がある。

London

St. James's Parkバッキンガム宮殿近くのセント・ジェームズ・パークは、春には一斉にその景色を変える

St. James's Park
St. James's Park, London SW1A 2BJ
0300 061 2350
www.royalparks.org.uk/parks/st_james_park

Spring

Sound the flute!
Now it's mute.
Bird's delight
Day and night;
Nightingale
In the dale,
Lark in sky,
Merrily,
Merrily, merrily, to welcome
in the year.

さあ、フルートを鳴らそう!
まだまだ聞こえないよ
鳥たちは昼も夜もにぎやかな様子だ。
ナイチンゲールは谷間の中で
ツグミは大空の下で
元気に歌っている。
そう、元気が大事。
このまま元気に今年の春を
迎えようじゃないか。

William Blake

William Blake
ウィリアム・ブレイク
1757-1827

ロンドンのソーホー地区に靴下商人の息子として生まれる。詩作だけでなく、銅版画家、挿絵画家としても活躍。幻想的な詩を多く残して、英国ロマン派詩人の先駆けとなった。本作「春」では、文末が2行ごとに韻を踏んでいるのが分かる。

Surrey

カッコウサリーの国立自然保護区で春を告げるカッコウ

Thursley Common
Thursley, Godalming GU8 6LW
https://surreyhills.org

Spring

Chill are the gusts to which the pastures cower,
And chill the current where the young reeds stand
As green and close as the young wheat on land:
Yet here the cuckoo and the cuckoo-flower
Plight to the heart Spring's perfect imminent hour
Whose breath shall soothe you like your dear one's hand.

春の歌

牧草地をすくませる風は冷たく、
若い葦が立つ流れの水もまた冷たい。
その葦は畑の若い麦のように
青く、密に並んでいる。
それでもここでは
カッコウとカッコウ・フラワーが
春の完全な訪れが
今まさに近いことを心に誓わせる。
その息吹は
愛しい人の手のように
優しくあなたを慰めるだろう。

ダンテ・ガブリエル・ロセッティ

Dante Gabriel Rossetti
ダンテ・ガブリエル・ロセッティ
1828-1882

ラファエル前派の1人として知られる19世紀英国の画家・詩人。若いころから中世イタリア詩の翻訳を行い、「神曲」で知られる詩人ダンテを愛し、英詩ではアルフレッド・テニスンやウィリアム・ブレイク、ジョン・キーツなどのロマン派の作品に傾倒した。妹は詩人のクリスティーナ・ジョージナ・ロセッティ。

South Dorset

英南西部ドーセットの緑の草に覆われた丘陵地帯英南西部ドーセットの緑の草に覆われた丘陵地帯

South Dorset
South Dorset, Near Jurassic Coast
www.visit-dorset.com

Spring

Nothing is so beautiful as Spring—
When weeds, in wheels, shoot long and lovely and lush;
Thrush’s eggs look little low heavens, and thrush
Through the echoing timber does so rinse and wring
The ear, it strikes like lightning to hear him sing;
The glassy peartree leaves and blooms, they brush
The descending blue; that blue is all in a rush
With richness; the racing lambs too have fair their fling.

春の歌

春ほど美しいものはない――
草は輪のように広がり、みずみずしく繁り
ツグミの卵は小さな空のように見える
森に響くその歌声は
耳を洗うように鮮やかで
稲妻のように胸に響く
梨の木の葉と花は
青い空へと軽やかに触れ
子羊たちもまた
春の野を駆け回る。

ジェラード・マンリ・ホプキンス

Gerard Manley Hopkins
ジェラード・マンリ・ホプキンス
1844-1889

イエズス会の司祭でもあった詩人。生前はほとんど作品が知られることはなかったが、死後評価が高まり、英国を代表する詩人の一人と見なされるようになった。独自の韻律理論「スプラング・リズム」によって詩の表現を刷新したほか、自然描写を通して神の存在を讃える詩作でも知られる。

Hull Minster

英北部ハルの大聖堂英北部ハルの大聖堂。ラーキンは同地で図書館長として暮らした

Hull Minster
Trinity Square, South Church Side, Hull HU1 1RR
https://hullminster.org

The Trees

The trees are coming into leaf
Like something almost being said;
The recent buds relax and spread,
Their greenness is a kind of grief.

木々

木々は葉を茂らせ始めている
まるで何か言いかけているかのように、
新しい芽はほっと広がり、
その緑はどこか悲しみに似ている。

フィリップ・ラーキン

Philip Larkin
フィリップ・ラーキン
1922-1985

20世紀後半の英国を代表する詩人の一人。当時流行っていた派手な実験や前衛性よりも、日常生活や時間の流れ、孤独、老い、死といったテーマを、簡潔で皮肉を帯びた言葉で描いたことで知られる。文学界の中心に身を置くことを好まず、英北部で図書館長として静かな暮らしをした。

Margate

マーゲイトのノースダウン・パークT.S エリオットが妻と過ごしたマーゲイトのノースダウン・パークには、紫色の花が咲く

Northdown Park
Margate, Kent CT9 3TP

The Waste Land

April is the cruelest month,
breeding
Lilacs out of the dead land, mixing
Memory and desire, stirring
Dull roots with spring rain.
Winter kept us warm, covering
Earth in forgetful snow, feeding
A little life with dried tubers.

荒地

4月はもっとも残酷な季節である。
なぜってライラックの花をわざわざ死ん だ土から引きずり出して
記憶と欲望をごちゃまぜにした挙げ句に
春の雨でお休み中の草の根を叩き起こ
そうとするのだから。
冬は良かった。私たちを守ってくれた。
地面なんか雪で蔽ってしまい、干からび
た球根で、なけなしの命を養おうとして
くれていたんだ。

フィリップ・ラーキン

T.S Eliot
トーマス・スターンズ・エリオット
1888-1965

米国ミズーリ州に生まれる。1927年に英国人として帰化。神経衰弱に陥った妻の世話で心労を重ねたといわれている。本作は「荒地」の第一部「死者の埋葬」からの抜粋で、妻を連れてイングランド南東部ケントの保養地マーゲイトに赴いたときに書かれたもの。

London

移動式遊園地の空中ブランコメイ・デーには英各地に移動式遊園地が現れる

Southbank Centre
Belvedere Road, London SE1 8XX
www.southbankcentre.co.uk

Folk Song

You lost your sparkle at the fair,

apple, cherry, blackthorn, pear

watched every petal disappear
among the glamour and the glare
and dodgem cars and flying chairs
and candy floss and dancing bears,
the goldfish and the silverware.

フォーク・ソング

あなたは見失った、ファンフェアの中で火花を、

りんご、さくらんぼ、スピノサスモモ、梨も

 

花びらがだんだん消えていくのを見ていた
華やぎとまぶしさの間で、
ぶつかり合うゴーカートや空中ブランコ、
綿菓子や踊る熊たち、
金魚や銀器に囲まれながら

サイモン・アーミテージ

Simon Armitage
サイモン・アーミテージ
1963-

詩人、劇作家、音楽家、小説家。2019年に桂冠詩人に任命された。2024年にナショナル・トラストとのコラボレーションで、春と花をテーマにした詩集「Blossomise」を発表した。俳句からリリカルな散文詩まで、幅広い表現で表現され話題となった。

詩を楽しむヒント英詩のリズムを意識しよう

詩の美しさは、文字を目で追っているだけでは分かりにくい。ここでは英詩のリズムに関する基本的な法則を基に、音で英詩を考えてみよう。英国の詩のリズムやその音楽性を知ることは、正しい英語の発音や抑揚を身に着けることにもつながる。 

(参考:「イギリスの詩を読んでみよう」 小林章夫著 NHK出版)

英語にも七五調がある?

俳句や短歌で使われる5・7・5や5・7・5・7・7の七五調のリズムが日本人にとって心地良く感じられるように、英国人の耳にも心地の良い英語のリズムというものがある。英詩ではそのリズムは「弱強五歩格」と呼ばれ、日本語でいう5・7・5の17音のような存在。弱強五歩格は、英国の定型詩の最も基本の形で、ウィリアム・シェイクスピアが好んで使った。シェイクスピアは詩だけではなく、戯曲でもこのリズムをよく使っており、弱強五歩格になっているセリフが多い。

If Music be the food of Love,
play on

(シェイクスピア「十二夜」)

弱・強・弱・強の順で音節を読む。色で網かけされた部分を強く発音。
この弱強のかたまりが1行に五つあるものを弱強五歩格と呼ぶ。

音節の弱強が重要!

英詩で最も重要なのはリズムといわれる。そしてそのリズムを形成するのが音節の弱強。英詩は弱強または強弱の組み合わせでできており、スタイルとしては、弱強五歩格のほかにも、弱強のかたまりが四つの場合(弱強四歩格)や、三つの場合(弱強三歩格)などがある。しかし、定型のスタイルばかりが続くと単調になることから、基本のリズムを壊した「破格」と呼ばれる形もあり、これは俳句や短歌で言えば「字余り」のような存在だ。

Because I could not stop for Death,
He kindly stopped for me

(エミリー・ディキンソン「poem #712」)

最初の行には四つの弱強があり、次の行は三つ。
四連詩(4行で作られている詩節)で弱強四歩格と弱強三歩格が交互に出てくるスタイルは、普通律、またはバラッド律と呼ばれている。

英語のリズムに慣れる

日本語の5・7・5のリズムは俳句だけではなく、「飛び出すな/車は急に/とまれない」のような標語としても、日常的に身近で使われている。同様に、詩の定型は英国人の英語の基本リズムにもなっているので、上で述べたような弱強を頭に入れておくことで、英詩を楽しむだけではなく、英文を読むとき、または聞くときなどに、英語がスムーズに頭に入ってきやすい。また、自分で話すときにもどこにアクセントを置けば良いかが分かるはずだ。

I am the son and the heir
Of nothing in particular

(ザ・スミス 「How soon is Now?」 )

1980年代の英バンドの歌詞を定型詩のように区切って読んでみた。
強調されている単語、音のつながりなどが見えてくる。
ちなみにこの詞は英詩人ジョージ・エリオットの
小説「ミドルマーチ」の一節に手を加えたものだそう。

 

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