The Go-Between
恋 (1970 / 英)
13歳の誕生日を目前に控えたレオは、寄宿学校の同級生マーカスの家族が住むノーフォークの豪奢な屋敷で夏休みを過ごす。そこでマーカスの姉に一目惚れしたレオは、彼女のために「郵便屋」の役目を買って出るが……。
監督 | Joseph Losey |
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出演 | Julie Christie, Alan Bates, Margaret Leightonほか |
ロケ地 | Tombland |
アクセス | London・Liverpool Street 駅から Norwich駅まで列車で約2時間 |
- 今週はいかにも英国的な、一見、優雅で慎み深くも、複雑な感情が絡んだラブ・ストーリーです。
- 英国の作家、L・P・ハートリーの同名小説を、赤狩りが行われていた1953年に英国に亡命した米国人監督、ジョゼフ・ロージーが映画化した作品ですね。1971年のカンヌ映画祭で最高賞のパルム・ドールを受賞した名作ですが、日本ではあまり知られていないような印象です。
- 邦題が「恋」っていうのもあんまりじゃないかね。もともと「go-between」って「仲介人」って意味だろ。
- 舞台は20世紀初頭、英南東部のノーフォーク州です。原作を読んでいないと少々分かりにくい部分もあるので簡単に説明しますと、主人公の少年レオは、寄宿学校で彼をからかった同級生に、オカルトの真似事をして呪いをかけたところ、彼らがまもなく大怪我を負ったことから「マジシャン」と呼ばれて一目置かれる存在になります。
- オカルトめいた要素が出てくるあたり、いかにも英国だな(笑)。
- そして夏休みに裕福な同級生マーカスの家族が住むカントリー・ハウスに招かれるのですが、マーカスの家は見るからにアッパー・クラス、平民のレオの目にはその贅沢な暮らしぶりが驚異的に映ります。このカントリー・ハウスにはノーフォークの「Melton Constable Hall」が使われていますね。またクリケットのシーンは北部の村「Thornage」、水浴シーンは国の自然保護区となっている「The Broads National Park」内の「Hickling Broad」で撮られています。
- そしてレオはそこで、マーカスの歳の離れた姉マリアンに一目で惹かれてしまうのです。マリアンも無垢で一途なレオを可愛がり、ノーフォークの街ノリッチへ連れ出して一張羅の服を買ってあげたりします。こちらはノリッチの歴史的な街並みが見られる「Tombland」周辺で撮影されています。
- そんなこんなで親しくなったマリアンのためなら、レオは何でもすると言い出し、その好意を受け取ったマリアンは、レオに「郵便屋」の役目を頼むんだな。
- マリアンの禁断の恋の相手、農夫のテッドに手紙を届け、テッドからの伝言をマリアンに伝えるという役目ですね。それが大人の秘め事だったと気付くまで、レオは無邪気にその役目に従事するのです。
- マリアンは階級差の問題からテッドと結ばれることはなく、ボーア戦争帰りの子爵ヒューとの結婚が決まっていました。ヒューともテッドとも親しくなっていたレオは、板挟みになって悩んでしまいます。しかもレオはマリアンに恋してるんです。マリアンがテッドに宛てた手紙を盗み読みして、思わず涙してしまうレオ。「もうここにいたくない。郵便屋ももうできない」と言い出し、マリアンに「なによ、今までさんざん世話してやったのに!」と罵声を浴びせられる場面は、さすがに可哀想でしたよね……。
- でも13歳の無垢な男の子は、恋人たちが逢い引きしてどんなことしてるのかも分からず、その部分でも悩んじゃうんだ。なんちゅうナイーブさだ!
- そこがこの古典作品を美しくしている理由でもあるじゃないですか(笑)。
- しかもその無垢なハートが、最終的には悲しい結末を招いてしまうというやるせなさ。誰のせいとも言えない、なぜならそれは恋が巻き起こした悲劇に他ならないから……。あっ、それで「恋」なのかー。
「過ぎ去った昔は異国である。そこには習慣の異なる人々が住んでいる」という原作の名文句が冒頭に流れる本作は、老年期に差し掛かったレオが、このトラウマチックなひと夏の経験を振り返る形で描かれている。美しい自然の景観や優雅な英国式上流階級の暮らしを背景にゆったりとしたテンポで話が進むが、その裏で善悪では片付けられない、非常に繊細な感情の往来やすれ違い、誤解が描かれている秀作だよ。
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