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英国ニュース解説

最終更新日:2012年9月26日

偽学生対策で学生ビザ制度が厳格化

就労可能な時間半減など新規定
偽学生対策で学生ビザ制度が厳格化

学生ビザ目まぐるしく変わり続ける英国のビザ制度であるが、今度は学生ビザの制度変更が発表された。労働を目的として入国する「偽学生」を取り締まるための措置であるらしいが、3月初旬からの変更と、発表から実施まであまり日がないこともあり、学生や語学学校などには動揺が広がっている。

学生ビザ制度変更の内容(2010年3月3日より実施)

・欧州経済領域(EEA)の加盟国以外の国の国民が、語学学校等の英語コースで英語を学ぶことを目的に「ポイント制度」の「4階層(Tier 4)」のカテゴリー内で学生ビザを取得する場合、語学学校等がそれらの学生に対して提供できる英語クラスの最低レベルを引き上げる。これまでは、英語コースで教えることができる最低レベルが、「欧州言語共通参照枠組み(CEFR)」(*)が規定する「A2」レベル(基礎レベル)であったところ、今後は「B2」レベルに引き上げられる。政府は、「B2」レベルについて、義務教育修了時に受ける全国統一試験(GCSE)と同等のレベルであると説明している。ただし、学位取得コースの準備コースとして英語クラスを受講する場合、及び本国の政府から財政支援を受けている学生は例外とされる。

・学位レベル未満のコース、またはファウンデーション学位(**)取得を目的としていないコースで学ぶ学生が学校の学期期間中に就業できる時間をこれまでの週20時間から週10時間に削減する。学校の休暇中はフルタイムの就業が許可される。

・入学したコースが6カ月以下のコースである場合、その配偶者には、学生ビザ保持者の配偶者として英国に滞在する権利は与えられない。このルールは、学位レベルを含むすべてのレベルのコースの学生に適用される。

・学位レベル未満のコース、またはファウンデーション学位取得を目的としていないコースで、期間が6カ月を超えるコースで学んでいる場合、配偶者には英国滞在の権利が与えられるが、配偶者の英国での就労は禁止される。ただし、配偶者が、「ポイント制度」の「1階層(Tier 1)」または「2階層(Tier 2)」のカテゴリー内において自身で英国内での就労の権利を獲得している場合は除く。これまでは、学位レベル未満のコースでも、12カ月以上のコースに入学していれば、配偶者に就労が許可されていた。

★上記のルールはすべて、「ポイント制度」の「4階層(Tier 4)」のカテゴリー内で学生ビザを取得した学生に適用される。
(*) 欧州評議会が制定する外国語学習の習熟度に関する指標。Common European Framework of Reference for Languages。
(**) 特定の産業分野で求められる知識、技術を身に付けることを目的とした高等教育の資格。2001年9月導入。大学、専門学校などにコースが設けられており、既にその分野で働いている人などを対象とする。Foundation Degree。

【補足1】2010年4月6日からの変更事項

・学位レベル未満のコースで、職業実習(Work Placement)を含むコースを提供できるのは、「信頼度の高い学生ビザ・スポンサー(Highly Trusted Sponsor)」として政府のリストに登録された学校に限る。「信頼度の高い学生ビザ・スポンサー」の登録制度は、政府が現在、詳細を策定中であり、今年4月6日から実施される。内務省は、公立の教育機関はすべて自動的に登録されることになる見込みであると述べている。民間の教育機関は、登録申請が必要になる見込み。

【補足2】今夏からの変更事項

・学位レベル未満のコース、ファウンデーション学位取得を目的としていないコースに入学を希望する者は、語学学校入学希望者も含め、英政府が承認した英語の試験機関が提供する英語の試験を受験し、英語力が少なくとも「CEFR(上記参照)」の「B1」レベルに達していることを証明することを義務付けられる。

Source: Home Office、UK Border Agency、UK Council for International Student Affairs

ポイント制度とは

2008年から段階的に導入された、欧州経済領域(EEA)の加盟国以外からの移民の規制制度。移民を下記の5つのカテゴリーに分け、各カテゴリーに必要なポイント数を獲得できればビザを取得できる。

1階層
(Tier 1)
高度な技能を有する労働者、起業家、投資家など
2階層
(Tier 2)
英国内の雇用主から仕事のオファーを受けている、技能を持つ労働者
3階層
(Tier 3)
労働力が不足している低熟練労働の仕事に従事するため雇用された短期労働者
4階層
(Tier 4)
学生(ビザ取得に必要なポイントは40ポイント。学校からの入学許可証(Visa Letter)の提出で30ポイント、留学費用及び滞在費用を自己資金でカバーできることを証明する財政証明の書類を提出すれば10ポイント獲得できる)
5階層
(Tier 5)
ワーキングホリデー・ビザ取得者、プロのスポーツ選手、英国でコンサートを行う音楽家など

労働は週10時間までに制限

政府は今月上旬、欧州経済領域(EEA)の加盟国以外からの学生に発給される学生ビザの制度変更を発表した。変更事項の大半は、学位レベル未満のコースの学生を対象としており、語学学校の学生などに大きく影響するが、大学生、大学院生にはそれほど関係がない。制度変更は今年3月3日からで、同日以降に提出された学生ビザ申請にはすべてこの新ルールが適用される。

英国では一昨年から段階的に導入された移民規制制度である「ポイント制度」の実施により、以前は可能だった非熟練労働者への労働者ビザ発給が不可能になった。そのため、英国で非熟練労働の仕事に従事したいEEA外の人が、とりあえず英国へ入国する手段として学生ビザを取得するケースが増えている。今回の制度変更は、こうした状況に対応し、労働目的の偽学生の入国を阻むことを主な目的としている。新ルールには、語学学校で学べる英語のレベルの最低ライン引き上げという内容もあるが、これも、英語力が低くても受け入れるコースに入学することで英国に入る手段を獲得し、非熟練労働の仕事を見つけようとする人の入国を防ぐためである。上記を見ると、たとえ学生ビザを取れても、学位レベル未満のコースに入学した場合は、学生自身及びその配偶者の英国での就労の権利が制限または剥奪されることになった事実が分かる。

インド北部からの学生ビザ申請7.5倍に

ポイント制度下における学生ビザのシステムについては、手続きがほとんど書類上だけで済むため、不正の標的になりやすいとの指摘はかねてからあった。英政府は今年1月末、インド北部、ネパール、バングラデシュからの学生ビザ申請受付を一時的に停止した。同地域からの学生ビザ申請が急増したことを受けたものであったが(例えば2009年10〜12月の北インドからの学生ビザ申請は1万3500件に上り、前年同期の1800件から7.5倍に増えた)、これらの申請の多くが「偽学生」によるものだったと考えられている。

国内の語学学校の代表組織である「イングリッシュUK」は今回の制度変更に関して、本当に英語を学びたい学生に英国留学の意欲を失わせ、語学教育産業に大きな打撃を与えるとして批判している。留学生の中には、まず語学学校に入学し、英国入国後に次の進学先として英国内のどの大学に行くか決める人も多いが、今回の制度変更によって、そうした学生も英国を留学先に選ぶことを躊躇するようになる可能性もある。そのため、語学学校のみならず、大学にもダメージは大きいと言われている。

保守党は更に制度厳格化か

なお、今春の総選挙で政権復帰を果たすと予測されている保守党は、伝統的に移民制限に積極的であリ、学生ビザ制度の改正にも強い意欲を見せている。同党のグレイリング影の内相は最近、学生ビザ制度について、「コース1年につき2000ポンド(約30万円)の手付金を留学生から英当局に支払わせ、本国に帰国しないと返金しない」「学生ビザで滞在中、通う学校を変更することを禁止」、「英国滞在に必要な自己資金の証明に関する規則の厳格化」などの厳しい政策を導入したい旨を明らかにしており、今後も制度の厳格化の流れは続くものと考えてよいだろう。

UK Border Agency

国境管理、移民・難民、ビザ発給、市民権、関税などの分野に責任を有する内務省の執行機関。日本語では「英国国境庁」などと訳される。「国境・移民局(BIA)」、「UKビザ」、「歳入・関税庁(HMRC)」の一部の機能を統合して2008年4月に設置。世界130カ国にオフィスを有し、各国で提出されるビザの申請書類の審査を行う。雇用職員数は全世界で2万5000人に達する。最近では、IDカード(身分証明書)に関する業務も行っている。英国の本部はロンドン南部クロイドン。ウェブサイトは http://ukba.homeoffice.gov.uk

(猫)

 

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