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英国ニュース解説

最終更新日:2012年9月26日

取り沙汰される婚前契約

英国でも法制化されるか
取り沙汰される婚前契約

結婚を目前に控えた2人が、慰謝料の支払いを含む離婚時の手続きや条件などを事前に定める「婚前契約」のあり方をめぐって、英国の法律関係者たちの間で議論が交わされている。英国全域ではまだ一般的な制度となっていないが、近い将来にイングランド及びウェールズでも制度化されるとの動きも見られているという。


婚前契約とは

婚前契約英語圏では「Prenuptial Agreement」と呼ばれ、「婚前同意書」と訳されることもある。米国やフランス及びドイツなどの欧州諸国では既に制度化されているが、英国ではスコットランドを除いて、まだ法的な拘束力を持つ文書としては認められていない。

婚前契約書作成における基本事項

  • 契約を締結するにおいては、遅くとも結婚式の21日前までに当事者が署名を行う。
  • 契約書作成に当たり、それぞれの当事者は別々に専門家のアドバイスを受けるのが望ましい。
  • 署名を行う前に、お互いの経済的情報をすべて開示しておく。
  • 署名は強制ではなく、両者の合意の下に行うことが大前提となる。

イングランド及びウェールズにおける離婚率

イングランド及びウェールズにおける離婚率
Sources: Guardian


イングランド及びウェールズにおける離婚の発生年齢

イングランド及びウェールズにおける離婚の発生年齢
Sources: Guardian


英国で注目を浴びた離婚劇

1996年8月 チャールズ皇太子と故ダイアナ妃の離婚が成立。
2006年7月 保険業界で働くジョン・チャーマン氏とベヴァリー夫人の離婚について、裁判所は慰謝料として、英国では史上最高額となる4800万ポンド(当時のレートで約100億円)の支払いを命じる。
2008年2月 元モデルのスーザン・サングスターさんによる、「婚前契約は無効」との訴えが棄却される。
2008年3月 ポール・マッカートニー歌手ポール・マッカートニーとヘザー・ミルズの離婚が確定。慰謝料は約2500万ポンドと報道されている。この2人は婚前契約を締結していなかった。
2008年10月 マドンナとガイ・リッチー映画監督ガイ・リッチーと歌手マドンナが離婚。
2008年11月 政府が「イングランドとウェールズにおいて婚前契約が制度化されるのは、2012年以降になる」との見通しを発表する。
2009年7月 ドイツ人女性カトリン・ラトマッハーさんによる、フランス人の元夫と結んだ婚前契約は有効であるとの主張を、裁判所が認める。
2010年3月 ラトマッハーさんの前夫による控訴の最終答弁が行われる。

世間を騒がせた離婚裁判

米国のハリウッド俳優に関する結婚・離婚報道などで度々耳にする「婚前契約」が、英国市民の間にも少しずつ浸透してきている。きっかけの一つになったのは、婚前契約の有効性が問われた、2008年のある裁判。過去に3回の離婚を経験している元モデルのスーザン・サングスターさんが、4番目の夫との14カ月の結婚生活に終止符を打つことを決意した際に、夫が資産を隠していたとして、「結婚が失敗に終わってもお互いに慰謝料などの金銭を要求しない」という婚前契約は無効であると主張したのである。彼女は敗訴したが、この裁判の内容が大々的に報じられたことで、これまで一般市民にはあまり馴染みのなかった婚前契約の概念がより身近に感じられるようになった感がある。

婚前契約は法的に認められるか

3月下旬、ロンドンの最高裁判所に、ドイツの製紙業界で名を馳せる名家の出身で、資産総額が1億ポンド(約135億円)とみられるカトリン・ラトマッハーさんが現れた。彼女のフランス人の前夫が、「結婚生活が終わったときにお互いの資産を要求しないという婚前契約は有効」という判決を不服として起こした控訴審の最終答弁に出席するためである。報道によれば、ラトマッハーさんは、「婚前契約は自分の家族が長年の勤労で築き上げてきた資産を守るためのもの。実家の資産は、私たちの結婚生活の行方とは関係なく守られるべきである」と主張した。

カトリン・ラトマッハーさん夫婦それぞれの出身国であるフランスとドイツといった欧州諸国では婚前契約が既に制度化されているのに対して、2人が結婚した地となったイングランドにおいては、婚前契約が法的な拘束力を持っていない。よって、離婚訴訟において婚前契約の存在が議論の俎上に乗った場合、その法的有効性をどれだけ認めるかは個々の裁判によって大きく異なる。このような状況下で、一部では「離婚訴訟をするならイングランド」との評判が立てられているという。

増加する婚前契約

政府は現在、イングランドとウェールズにおいて婚前契約が制度化されることがあれば、それは2012年以降になるとの見通しを示している。一方で、結婚・離婚を専門とする弁護士の元へ寄せられる婚前契約に関する問い合わせの件数は急増しているという。

「デーリー・テレグラフ」紙によると、とりわけ仕事を持つ女性たちからの問い合わせが突出している。他の先進諸国の例に漏れず、英国では企業の最前線でキャリアを磨いたり、自ら起業し資産を増やしたりする女性が増えている。そのような女性たちにとって、「婚前契約」は、万が一にも結婚生活が暗転した際に、結婚の前後で時間を明確に区切るために有用との認識が広がっている、というのがメディアの分析だ。もしそうであるとすれば、このような認識は、男性側にも有効であることになろう。他方、このような潮流は、社会が構築される中で伝統的、また歴史的に大切な役割を担ってきた結婚の意味を弱めるとの危惧もまた根強い。人生の区切りとなるにせよ、伝統を破壊するにせよ、婚前契約は、社会的に重大な意味合いを持つ可能性があることには間違いないだろう。

Something 4

サムシング・フォー。結婚式当日に花嫁が身に付けるべきとされているものの総称。Something Old(祖父母または父母の所有物。家族の絆を象徴する)、Something New(何か真新しいもの。未来への希望を象徴する)、Something Borrowed(幸せな結婚生活を送っている人などからの借り物。幸運のおすそわけを象徴する)、Something Blue(青いガーターやリボンなど。貞節を象徴する)の4つの「Something」を指す。英国ではビクトリア朝時代からこの習わしが受け継がれているという。

(守屋光嗣)

 

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