今年度の予算が発表
縮小を強いられる英国の大学
2010‐11年度における英国の高等教育機関への予算が3月末に発表されて以来、英国の各大学では、教職員の解雇や人文系学部の廃止といった縮小に向けた動きが見られるようになった。他方で、大学総長の高額な給与がやり玉に挙げられている。保守党と自由民主党による新連立政権がこれから取り組むことになる、英国の大学教育の予算に関する問題を改めて振り返る。
2010‐11年度に予算増減の影響を受ける主な大学
主要国における大卒の学位と給与の関係
*日本の高校に相当する教育機関の卒業者の平均給与を100とした場合の数値
大学関係者に高給を支給する英国の主な大学
大学名 | 2008-09年度における大学総長の給与 | 10万ポンド以上の年収を受け取る職員の数 | 昨年度における大学総長の給与増額率 | 過去10年における大学総長の給与増額率 |
ロンドン・ビジネス・ スクール |
47万4000 |
100名 |
15% |
78% |
ユニバーシティー・ カレッジ・ロンドン |
40万4000* |
311名 |
15% |
137% |
リバプール大学 | 38万6000 |
112名 |
20% |
188% |
インペリアル・ カレッジ |
33万9000 |
227名 |
n/a |
162% |
ノッティンガム大学 | 33万8000 |
112名 |
7.7% |
103% |
オックスフォード大学 | 32万7000 |
238名 |
20% |
220% |
ロンドン大学 キングス・カレッジ |
31万2000 |
202名 |
6.8% |
100% |
ブリストル大学 | 30万9000 |
91名 |
8% |
125% |
Source: Guardian
*加えて20万ポンドのボーナスを受給
大幅に削減された高等教育予算
英国の各大学機関が現在、教育予算減の影響に苦しんでいる。今年3月に発表された2010年度の国家予算において、大学教育に割り当てられた予算は約74億ポンドで、前年度より5億ポンド(約648億円)の減額が実施されたからである。上図が示すように、科学、工学、技術、数学系の分野を扱う学部では現状維持もしくは予算の上積みも見られた一方、減額措置の影響を最も受けたのが人文、社会、芸術系のコース。とりわけロンドン・ビジネス・スクール、コートールド芸術学院などの単科系の大学への補助金は、10%以上も削減された。
経営危機に直面する大学も
この大幅な予算減により、既にいくつかの大学において、職員削減や学部廃止といった形での影響が出始めている。例えば2007年に開校したばかりのカンブリア大学では、一部キャンパスが閉鎖され、教員200人が解雇に追い込まれた。さらにはロンドンのキングス・カレッジにある、英国で唯一と言われる古文書学のコースが今年の夏限りで廃止されることが決定。またミドルセックス大学では哲学科の廃止が検討されており、英国内外の著名な哲学者が反対運動を繰り広げるなどの混乱が起きている。
予算削減で苦しむのは、もちろん大学側だけではない。ロンドンのキングス・カレッジやウェストミンスター大学、イングランド北部にある名門のリーズ大学などでは、職員数の大幅な削減案が浮上しているが、こうした人員削減策は教育の質の低下につながり、結局は教育サービスの受け手となる生徒たちが損害を被ることになるのだ。
高騰する大学総長の報酬
ラッセル・グループに所属する大学の一つ、
オックスフォード大学
こうした状況を受けて、予算削減への反対を訴えるロビー活動も目立ってきた。中でも大きな議論となっているのが、英国人学生の学費。現在のところ、法律によって年間3290ポンド(約42万8000円)までとの上限が定められているが、英国を代表する20の大学が構成するラッセル・グループ(関連キーワード参照)は、この上限を撤廃することを主張。各大学が自力でより多くの教育費を徴収できるような仕組みを作ることで、予算不足を解決する道筋をつけるべきとの見解を示している。ただ英国の大学を卒業した学生が、卒業時に抱える負債額の平均が2万ポンド(約260万円)を上回るという現状もあり、学生側からの反発が起こることは必至だ。
さらに、大学総長の高額な報酬について、教職員組合、学生組合から疑問の声が上がっている。昨年には、30万ポンド(約3900万円)以上の報酬が支払われた大学総長が12名も存在したという。またゴードン・ブラウン前首相の給与を上回った大学総長は実に80名。予算削減のしわ寄せを学生や教員に押し付けておきながら、自分たちの高報酬だけは何とか維持しようとする総長たちへの不信感は大きい。
保守党と自民党との新連立政権がこうした問題を解決していくのか、もしくは予算削減を続行するのかは、今の段階では分からない。しかしながら、英国の高等教育をめぐる状況が急激に変化していることだけは間違いないだろう。
Russell Group
ラッセル・グループ。英国を代表する20の大学が参加するグループの呼称。ケンブリッジ大学、オックスフォード大学、インペリアル・カレッジ、ノッティンガム大学、エディンバラ大学、カーディフ大学などが含まれる。英国の教育界に対する大きな影響力を持っているとされており、英国の高等教育機関に集まる予算や研究費の総額の3分の2以上は、このラッセル・グループが占めると言われている。英国にはほかにも、「1994グループ」「ミリオン・プラス」といった、異なる大学によって構成されるグループが複数存在している。(守屋光嗣)
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