現在は男子優先、カトリックは排除
王位継承権のルール変更を検討
盛大なロイヤル・ウエディングが終わったばかりであるが、ウィリアム王子とキャサリン妃の婚約・結婚を機に、王位継承権に関するルールが、改めて議論の的となっている。王室の近代化につながる21 世紀にふさわしい改革は実現されるのだろうか。
現在の英国の王位継承順位
第1位 | チャールズ皇太子(エリザベス女王の長男) |
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第2位 | ウィリアム王子(チャールズ皇太子の長男) |
第3位 | ヘンリー王子(チャールズ皇太子の次男) |
第4位 | アンドルー王子(エリザベス女王の次男) |
第5位 | ビアトリス王女(アンドルー王子の長女) |
第6位 | ユージーン王女(アンドルー王子の次女) |
第7位 | エドワード王子(エリザベス女王の三男) |
第8位 | ジェームズ(エドワード王子の長男) |
第9位 | ルイーズ・ウィンザー(エドワード王子の長女) |
第10位 | アン王女(エリザベス女王の長女) |
第11位 | ピーター・フィリップス(アン王女の長男) |
第12位 | サバンナ・フィリップス (ピーター・フィリップスの長女) |
第13位 | ザラ・フィリップス(アン王女の長女) |
第14位 | デービッド・アームストロング・ジョーンズ (エリザベス女王の妹、故マーガレット王女の長男) |
第15位 | チャールズ・アームストロング・ジョーンズ (デービッド・アームストロング・ジョーンズの長男) |
第16位 | マルガリータ・アームストロング・ジョーンズ (デービッド・アームストロング・ジョーンズの長女) |
第17位 | セーラ・チャット(故マーガレット王女の長女) |
第18位 | サミュエル・チャット(セーラ・チャットの長男) |
第19位 | アーサー・チャット(セーラ・チャットの次男) |
第20位 | リチャード王子(エリザベス女王の従弟) |
左上から) チャールズ皇太子、ウィリアム王子、ヘンリー王子、アンドルー王子
下段左から) エドワード王子、アン王女、ザラ・フィリップス
*YouGov /「サンデー・タイムズ」紙調査
(2010年11月18、19日に1967人の成人を対象に実施した調査の結果。合計が100%にならないのは、結果を四捨五入または切り捨て、切り上げをしているためと思われる)
今のルールは「時代遅れ」と副首相
ニック・クレッグ副首相は4月中旬、女子より男子を優先する現在の王位継承のルールについて、改革が検討されていることを明らかにした。英国では現在、慣習法により、王位継承順位の決定において、女子より男子が優先されている。つまり、君主の最初の子供が女子で、次の子供が男子である場合、男子は、女子より年下であるにも関わらず、王位継承順位では第1位となる。エリザベス女王の長女であるアン王女は、次男のアンドルー王子、三男のエドワード王子より年上だが、王位継承順位は両王子より遥かに低い。副首相は、現在のルールは「時代遅れ」であるとして、性別に関わらず長子(最初の子供)を優先させるよう改革を行いたい意向を明らかにした。
00年前の法律でカトリック排除
副首相のこの発言に続き、デービッド・キャメロン首相も、BBCのラジオ番組で、男子優先から長子優先への制度改革を支持すると述べた。首相は同時に、カトリック教徒及びカトリック教徒と結婚している者の王位継承を禁じる法規定を改正すべきであるとの考えも明らかにした。今から300年以上前に制定された「1701年王位継承法(「関連キーワード欄」参照)」の規定により、カトリック教徒及びカトリック教徒と結婚した者は、王位継承を禁じられている。この法律の影響を受けた一人が、現女王の従弟に当たるマイケル王子であり、1978年にカトリック教徒と結婚した際、王位継承権を放棄した。
首相は、王位継承権における男子優先とカトリック教徒の排除という両方の点について改革が行われるべきであるとの見解を示した。これまでにも、「議員提出法案」(*)の議会への提出によって、王位継承権制度からこうした差別的な点を排除しようとする試みは何度か行われてきたが、改革は実現しなかった。ブラウン労働党政権が制度変更を検討しているとの報道もあったものの、成果はなかった。しかし、ウィリアム王子とキャサリン妃の婚約・結婚を機に、この問題が改めて重要課題として浮上することになった。
改革は「困難で、時間がかかる」
だが、首相、副首相はともに、改革は容易ではなく、時間がかかると述べている。その理由は、王位継承権の制度改革には、英国のみならず、英連邦内15カ国における法改正が必要とされるためである。エリザベス女王は、英国だけではなく、英連邦諸国の君主でもある。今年1月に王位継承権の制度改革を目指す「議員提出法案」を国会に提出したキース・バズ労働党議員は、ウィリアム王子とキャサリン妃に最初の子供が生まれる前に改革を行うべきであると訴えているが、首相官邸は、近い将来における進展は困難であるとの見方を示している。
クレッグ副首相は、特に男子優先から長子優先への改革を実行することは、「社会の変化に合っている」と述べていた。ともあれ、晴れの日を迎えたばかりの若きカップルに王室近代化の担い手としての役割が期待される中、王位継承権制度改革の議論も、今後益々活発になるかもしれない。
(*)議員が個人で議会に提出する法案。Private member's bill。
Act of Settlement 1701
1701年に制定された法律。「1701年王位継承法」。当時の国王であった、プロテスタントのウィリアム3世は、先に妻メアリを亡くし、子供がいなかった。このため、ウィリアムの死後は、「権利の章典」の規定に従って、メアリの妹であるアンが王位を継承することが予想されていた。しかし、アンは、死産・流産を繰り返したほか、生まれた子供も早くに亡くしており、後継を作ることは期待できなかった。そのため、アンの死後、プロテスタントが王位を継ぐことを保証し、フランスに逃れているカトリック教徒の前国王、ジェームズ2世の子孫に王位が渡ることを防ぐため、同法が制定された。(猫山はるこ)
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