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英国ニュース解説

最終更新日:2012年9月26日

イングランドの暴動の原因とは - 抗議運動か、憂さ晴らしだったのか

抗議運動か、憂さ晴らしだったのか
イングランドの暴動の原因とは

8月上旬、ロンドン東部トッテナムで発生した放火や略奪行為などの「暴動」は、その後の数日間でロンドン各地からイングランド中部バーミンガム、北部マンチェスターにまで飛び火した。小学生の児童から子を持つ親までが参加したこの暴動では、3000人近くが逮捕され、5人が命を落とすほどの事態に発展。その背景を探ってみる。

なぜ暴動が発生したと思いますか? (複数回答可)

親のしつけが悪い 52%
ギャング団の横行 47%
犯罪行動の蔓延 46%
刑罰の軽さ 45%
不公平な社会・貧富の格差 16%
失業 13%
教育程度の低さ 13%
政府による公的費用の削減 12%
若者が参加できる活動が少ないこと> 8%
人種問題 6%
警察の治安維持が不十分 6%

主な暴動の発生地

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Picture by: Lewis Whyld/PA Wire/Press Association Images
8月7日未明、暴徒により火をつけられた
ロンドン北部トッテナムのカーペット販売店


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Picture by: Lewis Whyld/PA Wire/Press Association Images
トッテナムで8月7日、顔を覆い、警官と対峙する暴徒



抗議活動から暴動に発展

いまだ記憶に新しい、イングランド各地での暴動のきっかけとなったのは、8月4日、黒人コミュニティーにおける銃犯罪を捜査していた警察が、ロンドン東部トッテナムで29歳の男性、マーク・ダガン氏を射殺した事件であった。この日、タクシーに乗っていたダガン氏は、警察官が発した銃弾を胸に受け、翌日早朝に死亡している。

6日夕方、遺族や住民らがトッテナム警察の前に集まり、ダガン氏の死をめぐる状況について、警察からの説明を求めた。地元住民たちは以前から警察に対する強い不信感を持っており、ダガン氏が十分な理由なく殺害されたと感じた者たちは、警察署近辺で抗議デモを実施したところ、夜が更けるに伴い、一部が過激化。パトカー、バス、店舗などに放火や襲撃を行うようになった。

止められなくなった略奪行為

報道によれば、その後ロンドンの他地域さらにはイングランド各地に連鎖していった放火・略奪行為は、自然発生というよりも、携帯電話ブラックベリーのテキスト・メッセージやソーシャル・メディアなどを通じての呼び掛けに呼応したものとの見方が強い。そして、暴動の拡大に警察や消防隊の対応が追いつかず、暴徒たちは誰にも止められることなく、略奪行為を続けることができた。

夏期休暇中だったキャメロン首相やジョンソン・ロンドン市長は、急遽、英国に帰国し、事態の収拾に乗り出さざるを得なくなった。ロンドン警視庁は鎮圧に当たる警察官の数を大幅に増員。8月末までに約3000人が逮捕され、5人が暴徒に襲われて命を落とす事態となった。襲撃を受けた商店街の被害総額は、2億ポンド(約252億円)に上ると言われている。

モラルの低下が原因か

低所得者や有色人種が多く住むロンドン東部では、1980年代にも何度か暴動が発生している。このため、これらの暴動は、失業問題、所得格差、人種問題などを背景にした、社会から疎外された人々による一種の抗議運動であったと当初は解釈されていた。しかし、暴徒には白人住民や、教師、大富豪の令嬢などが含まれていたことが判明。多くの人が、暴動の原因として「親のしつけの悪さ」「ギャング団の横行」「犯罪行動の蔓延」などを挙げている。また「エコノミスト」誌は、「モラルの低下が英国の少数の若者たちを支配している」との見解を示した。

キャメロン首相は、警察が地元の治安維持について、より責任を持つようにすること、家庭や学校で善悪の価値判断を教えること、第二次大戦時の徴兵制に似た仕組みを立ち上げた上で若者たちに山登りなどをさせるといったことを通じて、責任感や自制心を培うようにしたい、と述べている。暴動の原因の究明や再発防止策の実行は、今後の大きな政治課題となるだろう。

本件においては、数日間にわたって、多くの英国民が、いとも簡単に社会の秩序が破壊される様子を目の当たりにすることになった。地元コミュニティーを破壊する違法行為に簡単に手を染める若者や大人が相当数いることを示した一連の暴動は、英社会の闇を垣間見せた事件だった。


Hooligan

フーリガン。酒やドラッグを摂取して暴れる人々または頻繁に暴徒と化す、スポーツ・チームのファンといった意味がある。1960年代に英国のサッカー・ファンによる暴力事件が問題視されるようになり、現在では「暴徒と化す、スポーツ・チーム特にサッカー・クラブのファン」との意味合いで使われることが多い。8月に発生したイングランド地方の暴動事件では、暴徒をフーリガンに例える論説が多く見られた。その語源については諸説あり、ロンドンに住んでいたお酒好きのアイルランド人男性、パトリック・フリーハンの名に端を発するなどの説がある。

(小林恭子)

 

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