国民の生活への満足度探る
英国の「幸福度指標」が策定へ
英政府は現在、経済データだけでは分からない国民の生活の質や生活への満足度を測定するツールとして、「幸福度指標」を策定しようとしている。「幸せを感じる条件は人によって異なり、幸福のレベルを数値で表すことはできない」などとする批判的な意見も聞かれているが、今回は、昨年始まった政府のこの試みについて説明する。
☺ 英国の「幸福度指標」の案
(国立統計局(ONS)が2011年10月末に発表)
英国の「幸福度指標」の案 (全10 項目) |
予測される質問(*) | |
1 | 個人の幸福 | 「あなたは自分の人生に満足していますか?」 |
2 | 人間関係 | 「あなたは自分の妻または夫に満足していますか? 」 |
3 | 健康 | 「自分の身体的及び精神的健康に満足していますか? 」 |
4 | 仕事 | 「自分の仕事に満足していますか?」 |
5 | 居住地域 | 「居住地域での犯罪が心配ですか?」 |
6 | 個人の資産 | 「自分の収入に満足していますか?」 |
7 | 教育と職業技術 | 「自分の教育程度に満足していますか?」 |
8 | 国の経済状況 | - |
9 | 国の統治に関する状況 | - |
10 | 自然環境 | - |
Source: ONS
(*)各項目が「幸福度指標」として導入された場合、「幸福度」を測定するため、ONSによる調査に盛り込まれると予測される質問。8〜10では、それぞれ英国の経済成長に関するデータ、選挙での投票率、二酸化炭素(CO2)排出率などのデータなどが、「幸福度」の測定に使われると思われる。
主要欧州諸国の「生活の質」ランキング
国 名 | 各国の「生活の質スコア」 | |
1位 | フランス | 8.14 |
2位 | スペイン | 6.39 |
3位 | オランダ | 2.56 |
4位 | イタリア | 1.99 |
5位 | ドイツ | 0.62 |
6位 | デンマーク | -0.46 |
7位 | ポーランド | -1.08 |
8位 | アイルランド | -4.33 |
9位 | スウェーデン | -5.41 |
10位 | 英国 | -8.41 |
Source: uSwitch( 2011年9月発表)
(*)上記10カ国について、平均労働時間、1年間の平均休暇取得日数、公共料金を含む物価、1年間の日照時間などを調査し、国民の「生活の質」をスコア化した。
首相が昨年11月に方針発表
英国では現在、政府の方針で、英国の「幸福度指標(happinessindex)」の策定に向けた作業が進められている。キャメロン首相が、「幸福度指標」を策定するとの方針を明らかにしたのは昨年11月。その際、首相は、国の経済規模を示す国内総生産(GDP)のみでは、英国社会に関する幅広い要素を盛り込むことができず、国民の生活が改善しているかどうかを評価するには不十分であるとの考えを述べた。GDPは世界第7位の英国であるが(2010年時点、国際通貨基金調べ)、こうした経済データのみでは、国民が本当に自分の生活に満足しているかどうかは判断できないということである。
これ以降、国立統計局(ONS)は、「幸福度指標」の策定に向け、一般の人々を対象にした大規模な意見聴取作業などを実施している。10月末には、それらの結果として、全部で10項目の幸福度指標の案を発表した(上図参照)。ONSは現在、この案について、再び一般の人々から意見を募っているところである。キャメロン首相は、これらの作業を経て新たに策定される指標を使って「英国の幸福度」を測定し、その結果を、将来の政府の政策立案に役立てたいとの意向を明らかにしている。
ブータンは「国民総幸福量」の概念導入
国の政策運営において国民の幸福度を重視するという考え方は、決して新しいものではない。南アジアのブータン王国は、1970年代に「国民総幸福量(GNH)」という概念を導入し、経済成長ではなく、国民の「幸福量」を増加させることを国の政策運営の中枢に据えている。
またフランスでは、サルコジ大統領が2008年に発足させ、ノーベル経済学者のジョセフ・スティグリッツ氏が委員長を務めていた「経済パフォーマンスと社会進歩の測定に関する委員会」が、2009年に最終報告書を発表し、「社会の成功を測る基準として、GDPに加え、人々の幸福、生活の質、それらの持続可能性を評価する指標が必要である」と述べた。サルコジ大統領は、この報告の発表後、同提案を取り入れ、同国の経済成長を測る指標に、国民の幸福度に関するものを加える意向を明らかにした。
英国は「生活の質」が主要欧州諸国で最下位
英国における幸福度指標の策定については、緊縮財政が実施されている今の時代に相応しくない「税金の無駄遣い」であるとの声もある。しかし、例えば公共料金等比較サイト「ユースイッチ(uSwitch)」が今年9月に発表した調査結果によると、英国の国民の生活の質は、主要な欧州諸国の中で最下位となっている。これは、平均労働時間、1年間の平均休暇日数、物価、平均収入などを基に欧州10カ国の生活の質をランク付けしたもので、1位はフランスであった。
こうした結果を見ると、GDP以外の指標によって、国民の生活の実態をより幅広い角度から把握し、その結果を政策策定に役立て、人々の生活の質改善を試みることには意味があるように思える。なお、前述したONSが現在実施している意見聴取作業の結果は来年春に発表され、その際更に、「幸福度指標」の策定に向けた今後のスケジュールが発表される予定である。
Gross Domestic Product(GDP)
国内総生産。一定期間内に一つの国で産み出された財・サービスの付加価値の総額。国民総生産(Gross National Product, GNP)との違いは、GDPが一つの国(英国、日本など)の中で産み出された付加価値であるのに対し、GNPは、ある単一の国の国民(英国人、日本人など)が一定期間内に生み出した付加価値を指すことである。つまり、GNPには、英国人または日本人が自国以外の国で産み出した付加価値も含む。英国のGDPは四半期ごとにONSが発表している。英国のGDPの最新の数字は、2011年7〜9月のもので、前期比0.5%増であった。(猫山はるこ)
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