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英国ニュース解説

最終更新日:2012年9月26日

英国政府の公営住宅改革について - 「また貸し」の違法化案など

カウンシルフラットまた貸し」の違法化案など
政府の公営住宅改革について

設備や環境が悪いなどの声が聞かれる一方、民間の住宅よりも家賃が大幅に安いことが最大の魅力である公営住宅。住んだことはなくても、将来入居してみたいと考えたことがある読者の方もいるかもしれない。
今回は、現政権が進めている公営住宅制度改革について説明する。

「 2011年ローカリズム法」(2011年11月成立)に
盛り込まれた公営住宅制度改革(一部)

  • 地方自治体に対し、公営住宅の入居待ちリスト(waiting list)に登録できる人の条件を設定できる権限を与える。これにより、本当は公営住宅を必要としない人が入居待ちリストに登録されることを防ぐことができるようになる。
  • 自治体を含む公営住宅提供機関が、公営住宅の新規入居者の入居期間を限定できるようにする(本文参照)。
  • 異なる地域に住む公営住宅の入居者間で賃貸の権利を交換できる制度を作る。これにより、公営住宅の入居者が、自分の生活に関わるニーズに合った場所に住めるようにする。
  • 自治体が、公営住宅の家賃を保持し、公営住宅の維持費などに使えるようにする(現在、自治体は、公営住宅の家賃を中央政府に納めなければならない。その後、中央政府から、全国から集められた家賃の一部を、公営住宅サービスの提供資金として交付される)。

公営住宅の家賃平均額

住宅協会(Housing Associations)* が提供する公営住宅の週当たり家賃平均額 **
(単位: ポンド)
  1999年 2002年 2005年 2008年 2011年
イングランド北東部 43.37 46.24 51.51 58.25 65.78
イングランド北西部 43.66 48.97 54.59 61.78 68.65
ヨークシャー・アンド・ハンバー地方 46.12 49.23 51.07 58.02 66.20
イースト・ミッドランズ地方 48.24 49.94 55.96 64.14 72.08
ウエスト・ミッドランズ地方 48.20 49.87 55.50 64.23 72.47
イングランド東部 52.58 57.45 63.54 72.24 81.87
ロンドン 59.30 65.25 74.67 85.64 97.46
イングランド南東部 58.09 63.67 71.37 80.67 89.94
イングランド南西部 50.98 55.53 62.02 70.11 76.04
イングランド平均 51.92 55.81 61.49 69.96 78.28

* 住宅協会とは、公営住宅の提供を担う民間の非営利団体。現在、公営住宅の主たる提供機関は、自治体ではなく、住宅協会である。イングランドの住宅協会は、公的機関である「賃貸人サービス局(TSA)」に規制されている。
** すべて、各年の3月末日における公営住宅の週当たり家賃平均額を示す。

地方自治体が提供する公営住宅の週当たり家賃平均額(単位: ポンド)
  1998年 2001年 2004年 2007年 2010年
イングランド平均 42.25 47.87 52.90 61.62 67.83
スコットランド平均 39.13 43.28 48.22 55.26 62.58
ウェールズ平均 35.36 39.30 42.64 48.35 54.31
北アイルランド平均 35.93 40.34 44.19 48.82 52.76
英国平均 40.64 46.16 50.93 58.91 65.06

入居期間の限定が可能に

カウンシルフラット一般に「カウンシル・ハウス」「カウンシル・フラット」などの名前で呼ばれる公営住宅。2010年5月に誕生した保守党と自由民主 党の連立政権は、教育や福祉などの多くの分野と同様、公営住宅についても改革を進めているところである。  

まず、昨年11月に国会で成立した「2011年ローカリズム法 ( Localism Act 2011)」に、幾つかの改革が盛り込まれた。そのうちの一つは、公営住宅入居者の入居期間を限定することが可能 になったことである。これまでの制度では、公営住宅の入居者は通常、終身の入居権を与えられていた。しかし、新法によって、自治体を含む公営住宅提供機関が、新規入居者の入居期限を設定することができるようになったのである(ただし、最低入居期間は2年と規定されている)。入居期限が終了する前、入居者がまだ公営住宅に住む必要があるかどうかについて審査が行われ、その結果、 賃貸の終了または継続が決定される。

政府は、この新制度導入の理由について、何らかの事情(失業し、住宅ローンが払えなくなって自宅が差し押さえられた、ドメスティック・バイオレンスの被害に遭って家を出たが住む家がないなど)があって公営住宅の入居権を与えられた人が、そうした事情がなくなり、生活状況が改善した後も、依然として公営住宅に住み続けることができるのは不公平であるためと説明している。こうした現状を改善し、本当に公営住宅を必要とする人に入居権が与えられるようにすることが、この改革の目的であるという(ただし、新制度導入後も、自治体を含む公営住宅提供機関は、新規の公営住宅入居者に対し、終身の入居権を与えることもできる)。

また貸しで国庫に巨額の損失

更に、今月11日、グラント・シャップス住宅担当閣外相は、公営住宅の「また貸し(sublet)」を違法化する計画を明らかにした。公営住宅のテナント(賃貸人)が、自分は民間の住宅に引っ越すなどした上で、賃貸権を持つ公営住宅を、公営住宅提供機関に自分が支払っているよりも高い家賃で他人に貸すといういわゆる「また貸し」を行い、収入を得ているケースは少なくない。また貸しは、現行法では違法ではないが、この慣習の横行による国庫への損失は年間50億ポンド(約6000億円)にも上ると試算されている。政府は、また貸しを違法化し、違反者に対しては、最高5万ポンド(約600万円)の罰金または最高2年の禁固刑を科することを計画している。政府は現在、この計画に対し、一般の人々などから意見を募っている。

今後、更なる改革実施の計画

同相はこのほかにも、年収10万ポンド(約1200万円)以上の高所得者である公営住宅入居者には、民間の賃貸住宅と同レベルの家賃を支払うことを求める計画を明らかにしている。同相によると、 「政府は、2012年を、公営住宅制度に関する不正や制度悪用に取り組む年にする」ことを意図しているという。公営住宅に既に住んでいる人、また将来の入居を希望している人は、政府の今後の動きに注目しておくべきであろう。

(*なお、文中で紹介した公営住宅改革は、すべてイングランドのみに適用される)

Right to Buy

公営住宅の賃貸人に、居住する物件を、市価より安い値段で購入する権利を与える制度。1980年、当時のマーガレット・サッチャー首相率いる保守党政権が「1980年住宅法」によって導入し、英国の持ち家率を飛躍的に上昇させた。現在も制度は継続中。家の購入を申し込むための条件は、当該の公営住宅を5年以上賃貸していること。家の値段は、購入者の賃貸年数、物件がある地域、物件の種類などによって異なる。同制度を利用して買った物件を、購入後10年以内に転売する場合は、最初に、元の家主(自治体または住宅協会など)に対し、購入の意思の有無を聞かなければならない。

(猫山はるこ)

 

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