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英国ニュース解説

最終更新日:2012年9月26日

NHSの総合病院が民間運営に - 財政難背景に、全国で初の試み

財政難背景に、全国で初の試み
NHSの総合病院が民間運営に

ヒンチンブルック病院について

国民医療制度(NHS)が国営のサービスであるということは、英国在住者ならば大半の人が知っているが、実は民間の企業・組織によって提供されているサービスも含まれている。更に今月初頭には、英国で初めて、民間企業によるNHSの総合病院の運営が開始され、大きな話題となっている。

サークル社が掲げる
ヒンチンブルック病院の16の改善ポイント

1 安全ではないと考えられるサービスを改善する。
2 患者の命にかかわる事態が発生した場合、24時間以内に、病院の責任者及び幹部医師に報告する。
3 医療ミスと院内感染をなくす。
4 看護師の勤務時間の3分の2を患者との接触に使うようにする。
5 患者の都合に合った場所での治療を可能にする。
6 病院のサービス改善の方法に関する患者からの提案の内容及びその提案に基づいて実行した措置などを病院のウェブサイトで発表する。
7 ミシュラン・ガイド掲載のレストラン出身シェフからの指導に基づき、 質の高い病院食を提供する
8 入院患者向けの新たなエンターテイメント・システムを導入する。
9 無駄を解消する。
10 外部の専門家の助言に基づき、調達の方法を改善する。これにより、2年以内に大幅な経費削減を実現する。
11 近郊地域在住の患者を獲得する。
12 病院のスペースを最大限に有効活用する。受付のデザインを改善する。より公平な駐車システムを導入する。
13 病院全体を2つの部門に分け、それら部門を更に「治療ユニット」に分ける。それぞれの「治療ユニット」は、治療に関わる意思決定権を持つ。
14 「治療ユニット」の設置に合わせ、病院のサポート・サービスを再編成する。
15 職員のパフォーマンスを、直属の上司のみならず、同僚、部下の評価、また自己評価によって査定する。
16 幹部職員は、サークル社が実施する「リーダーシップ養成講座」に参加し、管理の手法などを学ぶ。

ヒンチンブルック病院について

ヒンチンブルック病院について

1983年、ケンブリッジシャー州西部のハンティンドン(Huntingdon)近郊にオープン。鉄道のハンティンドン駅から徒歩10分の場所に位置する。産婦人科、外科、整形外科、一般医療などを含めた9つの病棟に分かれる。ベッド数は382。職員数は1700人。

2005年、病院に隣接して「ヒンチンブルックNHS治療センター」がオープン。同センターは、入院期間が2日未満の眼科や整形外科などの手術のほか、歯科、眼科、耳鼻咽喉科などの外来患者を受け付けるクリニックである。また、2006年には緊急ケア・センターがオープンしている。

医療サービス提供機関の監視団体である「ケア・クオリティー・コミッション」の最新の評価では、「患者のニーズに応えたケア、治療、サポートの提供」「患者の安全を守る」の2点において、「改善が必要」と判断された。NHSのウェブサイトに投稿された利用者の評価は、100点満点中58点となっている。
ウェブサイトは www.hinchingbrooke.nhs.uk/page/home

4000万ポンドの債務を返済へ

最高指導者ハメネイ師

今月1日より、イングランド東部ケンブリッジシャー州にあるNHSの病院が、民間企業によって運営されることになった。この病院とは、同州西部に位置する「ヒンチンブルック病院(Hinchingbrooke Hospital)」であり、運営を委託されたのは、ロンドンに拠点を置く民間の医療サービス提供会社「サークル(Circle)」である。

ヒンチンブルック病院の運営が民間企業に委託されることになった背景には、同病院の資金面での問題がある。NHSの病院は、主に患者の数に応じて国庫から資金を支給されるが、地方部に位 置する同病院には、十分な数の患者が訪れず、財政難に陥った。サークル社が合意したヒンチンブルック病院の運営契約期間は10年間であり、同社はこの間、経営効率化によって、4000万ポンド(約48億円)にも上る同病院の債務返済に取り組むことになる。

「NHSの民営化進める」との声

その名が示す通り、NHSは国営の医療制度であるが、既に民間企業によるサービス提供は行われており、白内障や人工股関節置換の手術などの緊急ではない治療を行うNHSのクリニックを民間の医療サービス提供会社が運営している例は数多くある(サークル社も既に、ノッティンガム市でこうしたNHSのクリニックを運営している)。しかし、NHSの総合病院の運営を民間会社が担うのは、今回のヒンチンブルック病院の例が初であり、労働組合などからは、「NHSの更なる民営化を進める」との批判の声が上がっている。これに対し、NHSは、ヒンチンブルック病院のケースは「民営化ではなく、経営陣が新しくなっただけ」であり、サークル社が運営を引き継ぐことで、病院の閉鎖を防ぐことができたと述べている。

折りしも現在、国会では、NHSの大規模な構造改革を目指す「保健・福祉ケア法案(Health and Social Care Bill)」が審議中である。同法案が通れば、NHSへの更なる民間企業の参入が奨励されることになるため、「治療の質より、収益が優先されるようになるのではないか」と危惧する声は多い。

更に20のNHS病院が財政難

なお、ヒンチンブルック病院は、民間の運営になったとは言え、NHS病院のままであり、これまでと同様、治療は無料である。建物、設備なども依然としてNHSの所有であり、スタッフもNHSの職員である。サークル社は1日、職員との協議で決まったヒンチンブルック病院の16の改善ポイントを発表し、今後の改革に向けた方針を明らかにした(上記参照)。

報道によると、イングランド内の更に20のNHS病院が現在、ヒンチンブルック病院と同じような財政状況にある。これらの病院の 一部は、ほかの病院との合併を検討しているが、ヒンチンブルック病院の試みが成功すれば、同様に民間企業に運営を任せる可能性もある。サークル社のアリ・パールサ最高経営責任者は、同病院が「NHSの総合病院で全国のトップ10に入ることを目指す」と述べているが、果たしてNHSが言うところの「歴史的なパートナーシップ」が成功し、この目標を達成できるのか、多いに注目されるところである。

Circle

ロンドンに本社を置く民間の医療サービス提供会社。バース市、ストラトフォード・アポン・エ イボン市などでプライベートの病院、クリニックを運営している。創業者で最高経営責任者の アリ・パールサ氏は、16歳でイランから英国に渡った移民。サークル社創業前は、ゴールドマ ン・サックス証券などでの勤務経験がある。サークル社では、同社の病院で働く医者及び従業員のパートナーシップである「サークル・パートナーシップ」が株の49.9%を所有し、残りの 50.1%を、親会社である「サークル・ホールディングス」が所有している。サークル・ホールディング社は株式上場済み。

(猫山はるこ)

 

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