「クリーンなエネルギー」の行方は?
英国における原発の今
昨年3月、東日本大震災が発生し、福島県の原子力発電所が危機状態に陥った。その後、ドイツが原子力発電からの完全撤退を掲げ、イタリアで実施された国民投票では原発建設への反対が表明された。翻って、1950年代半ばに世界初の商用原子炉を稼動させた英国では、新規施設の建設計画も含めて、原発に関する国の方針を変更する予定はないようだ。英国における原発事情を検証する。
英国における供給源別電力生産
英国は原発計画を変更せず
原子力の民事利用を規制・監督する団体「原子力規制庁」(Office for Nuclear Regulation=ONR)は、昨年10月、東日本大震災で発生した福島第1原子力発電所での事故が英国の原子力産業に与えた影響についての調査報告書を発表した。同報告書は、「英国の 原子力施設に基本的な安全上の問題があるとは思えない」とした上 で、福島の事例によって、英国の原子力産業がこれまでの方針や今後の計画を変更する必要はないと結論付けている。
その根拠として、①事故が発生した福島原発では軽水炉型の原子炉が使われていたが、英国ではガス冷却型である、②ほぼ10年ごとに国内の各原発が安全性の点検を監督団体から受けている、③規制・監督団体が原子力業界から独立している上に、原発を推進する政府からも独立している、④大規模な津波や地震が発生する確率が低い、ことなどを挙げている。
英国でも原発事故の過去が
1940年代、英国の科学者たちは、主に軍事目的で原子力を開発していた。1946年には、英国最初の原子炉をイングランド南部オックスフォード州ハーウェルに設置。1956年には、同北西部カンブリア地方の核施設ウィンドスケールに隣接するコールダー・ホール原発(マグノックス炉を使用、関連キーワード参照)で、世界初の商用発電が開始された。
原発事故も経験済みだ。1957年には先のウィンドスケールで火災が発生し、大量の放射線汚染物を拡散。2005年には、セラフィールドと改名した同所のソープ核燃料再処理施設のパイプの隙間から20トンのウラニウム、160キロのプルトニウムが漏洩した。
「クリーンなエネルギー」としての位置付け
地球温暖化への懸念が高まっている近年の英国においては、原発は二酸化酸素を排出しない「クリーンなエネルギー」として受け止められてきた。さらに歴代の政府は、「事故発生率が低い」点も原発の利点として挙げている。また英国の保守層の多くは、英国が誇る田園の景観を損なう風力発電用施設を建設することの方を問題視してきた。
原発の長い歴史を持つ英国は、同技術を初期に導入した国であるからこその悩みを持つ。そのうちの一つが、国内に旧型の原子炉を多く抱えているということだ。今後、旧型原子炉は次々と稼動停止となる時期を迎える。現在稼働中の原子炉の中で、2024年以降も稼動予定なのはサイズウェルBのみ。この原子炉も2035年を最後に稼動停止となる。原子炉は建設計画から施設の完成までに10〜15年かかるため、2020年代以降、継続して原発を利用するのであれば、緊急に建設に着工しないと電力出力に問題が生じる可能性がある。
3月11日、東日本大震災の1周年記念日、イングランド西部ヒンクリー・ポイントの新規原発建設予定地で、住民らによる建設に反対する抗議デモが起きた。福島原発事故の後、英国は欧州他国とは異なり、原発計画を大きく変更させなかったが、「原発=国の将来を託すに値する、安全な、環境にやさしいエネルギー供給源」という楽観論は少々あせたように見える。
Magnox
マグノックス炉。核分裂で生じた熱エネルギーを、高温の炭酸ガスとして取り出す仕組みを使う、英国が開発した原子炉のタイプ。名前の由来は、超高温に耐えうるマグネシウムの新合金「マグノックス」を使用したため。主に核兵器に使用する濃縮ウランを生み出すために設計されたマグノックス炉は、1956年、イングランド北西部にあるコールダー・ホール原子力発電所で初稼動。世界最初の商用原子炉で、これを原型として、多くのガス冷却型原子炉が実用化された。日本初の商業用原子力発電所である東海発電所にも導入されている。コールダー・ホールのマグノックス炉は2003年に稼動停止している。(小林恭子)
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