フランスの文化一元主義に歪みか
ホームグローン・テロリズムとイスラム移民
欧州最大規模のイスラム移民とユダヤ系住民を抱えるフランスは、文化の一元主義を守り続け、民族や宗教という属性を捨てることでフランス人になりきることを移民に義務付けてきた。先月末に発生したユダヤ人学校襲撃事件などを受けて、英国と同様、テロ事件に手を染める移民対策に乗り出すフランスの実情を追う。
欧州諸国におけるイスラム教徒 / ユダヤ系人口(2010年度)
1. | フランス | 470万4000人 | 7.5% |
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2. | ドイツ | 411万9000人 | 5% |
3. | 英国 | 286万9000人 | 4.6% |
4. | イタリア | 158万3000人 | 2.6% |
5. | スペイン | 102万1000人 | 2.3% |
6. | ブルガリア | 100万2000人 | 13.4% |
7. | オランダ | 91万4000人 | 5.5% |
8. | ベルギー | 63万8000人 | 6% |
9. | ギリシャ | 52万7000人 | 4.7% |
10. | オーストリア | 47万5000人 | 5.7% |
1. | フランス | 48万3500人 | 0.77% |
---|---|---|---|
2. | 英国 | 29万2000人 | 0.47% |
3. | ドイツ | 11万9000人 | 0.15% |
4. | ハンガリー | 4万8600人 | 0.49% |
5. | ベルギー | 3万300人 | 0.28% |
6. | オランダ | 3万人 | 0.18% |
7. | イタリア | 2万8400人 | 0.05% |
8. | スウェーデン | 1万5000人 | 0.16% |
9. | スペイン | 1万2000人 | 0.26% |
10. | ラトビア | 9700人 | 0.43% |
出典: The Guardian 'Muslim populations by country', Jewish Virtual Library
「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ」
1998年発足。イスラム初期(サラフ)に回帰する思想潮流で、北アフリカのアルジェリアを中心にマグリブ諸国で活躍するイスラム過激派。2006年、アルカイダに忠誠を誓って同組織との統合を表明し、「説教と戦闘のためのサラフィ主義者集団(GSPC)」から改名。
欧州「グローバル・シャリア運動」主要参加組織
「誇りの騎士団」(仏Forsane Alizza)
フランスに拠点を置くアルカイダ系イスラム過激派組織。南仏ユダヤ人襲撃事件の容疑者が所属していたとされ、反ユダヤ主義を主張。
「一神論集団」(Jama'at AL-Tawheed)
2004年にイラクで発足した「タウヒードとジハード集団」を母体とする、フランス拠点のアルカイダ系イスラム過激派組織。
「英国にシャリア法を」(Sharia4UK)
英国拠点のイスラム過激派組織。1986年発足のイスラム系組織「移民たち(Al-Muhajiroun)」非合法化を機に、2010年にほか2つのイスラム組織と合併。
「ベルギーにシャリア法を」(Sharia4Belgium)
ベルギー拠点のアルカイダ系イスラム過激派組織。右派政党「フラームス・ベランフ」所属の女性議員の死(子宮頸がん)はアッラー(神)の刑罰と称し、波紋を呼んだ。
南仏ユダヤ人学校襲撃事件とその真相
ユダヤ人学校襲撃事件の実行犯の
自宅に詰めかけた警官たち
3月22日、フランス南部トゥールーズで、ユダヤ人学校襲撃事件の実行犯が、30時間以上に及ぶ自宅立てこもりの末、特殊部隊との撃ち合いで射殺された。アルジェリア系フランス人のモハメド・メラ容疑者(23)は、同月11日と15日に北アフリカ系仏軍兵士3人を殺害し、19日にはユダヤ人学校で子供3人を含む4人を至近距離から射殺し逃走していた。
当初、仏当局は、今般のユダヤ人学校襲撃事件は、反ユダヤ主義者を掲げる極右勢力による犯行と見ていた。しかし、メラ容疑者が、2010〜11年にアフガニスタン・パキスタン国境付近で国際テロ組織アルカイダ系武装勢力「タリバン」と接触し、また仏軍のアフガニスタン派遣などを理由に殺害に及んだとみられることから、イスラム過激派によるテロ事件と判断。仏当局は、共犯者の有無やアルカイダとの関連性などについての捜査を開始したが、容疑者射殺により、その動機や真相は不明のまま迷宮入りする可能性もある。
ホームグローン・テロリズムとは
同事件で、仏当局は、国内育ちの過激派「ホームグローン・テロリスト」に対する警戒度を最高レベルに引き上げた。ホームグローン・テロリズムとは、欧米などの先進国において、主にインターネットなどの情報を通じてアルカイダ系ジハード思想に触発された若者(特に第2、第3世代の移民)が、国家や社会に対する個人の不満や怒りと関連付けて独自の過激思想を構築し、単独でテロ行為に及ぶことを指す。またメラ容疑者のように、アフガニスタンなどの訓練キャンプに出向き、ジハード戦士として軍事訓練を受ける者もいるが、イスラム教徒の象徴でもある髭も蓄えておらず、これまでの一般的な過激派のイメージとは必ずしも一致しないというのもホームグローン・テロリストの特徴の一つだ。
一方、同事件発生直後、アルカイダ系過激組織フランス支部「誇りの騎士団」がネット上に犯行声明を発出したほか、同容疑者が犯行前に英国のイスラム過激派と接触した可能性も浮上している。また仏当局は、同容疑者と兄は「誇りの騎士団」のメンバーであるとしているが、兄は「弟を誇りに思い、彼の行為を評価する」としたものの、犯行は知らなかったと供述しているなど、同団との関係性は依然として不透明である。
世俗国家フランスとイスラム系移民
1789年のフランス革命が生んだ「自由・平等・博愛」の共和国理念の下、世俗主義を貫いてきた同国は、公共の場から宗教を排除する一方で、私的空間での信仰の自由を保障するというフランス流の政教分離を再確認すべく、2004年にイスラム教徒のスカーフやキリスト教徒の十字架など、公立学校での宗教的シンボル着用を禁じた。
他方、欧州最大のイスラム系移民を抱える同国では、元サッカー選手のジダン氏がそうだったように、アルジェリア系移民は郊外の移民区域で厳しい生活を強いられており、人種差別や就職時の差別も根強い。一元主義国家を主張し続ける仏政府と、多文化的モザイク社会と化した現代フランス国家の歪みが、ホームグローン・テロリズムとして表面化したのかもしれない。
Forsane Alizza
「誇りの騎士団」( 仏Forsane Alizza、英Knights of Pride)。欧州で広がりを見せる「グローバル・シャリア(イスラム法)運動」を掲げ、西洋のイスラム化を目指す。主な拠点は、仏中南部リモージュ、北西部カーン、西部ナント、南部トゥールーズ、パリ北部郊外ラ・クールヌーヴなど。本年1月、仏当局により、反ユダヤ人などの人種的嫌悪を煽るとして非合法化。現在は、仏イスラム系コミュニティー・サイト「Mon-islam.com」やツイッターで活動。昨年4月、英拠点の「Sharia4UK」などのイスラム過激派組織とともに、フランス国内のイスラム教徒に対するスカーフ着用禁止に反対する声明を出している。(吉田智賀子)
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