火事を乗り越え、6年間の修復工事の末
カティ・サーク号の一般公開が再開
「カティ・サーク」と言うとウイスキーを思い浮かべる人もいるかもしれないが、もちろんこのウイスキーは、19世紀に建造された紅茶輸送用の帆船から名前を取ったものである。1950年代からロンドン・グリニッジで保存されているカティ・サーク号は、修復工事を終え、このほど一般公開が再開された。
カティ・サーク号の歴史
1869年 | スコットランドのダンバートン(Dumbarton)で建造される。 |
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1870年 | 紅茶輸送のため、初めて中国へ出航。 |
1872年 | 中国・上海で紅茶を積み、同じく紅茶輸送用の快速帆船であったサーモピレー(Thermopylae)号とロンドンを目指して同時に出航。しかし、途中で強風のため舵を失い、サーモピレー号より1週間遅れてロンドンに到着する。 |
1877年 | 中国からロンドンまでの最後の紅茶輸送を行う。 |
1878〜1882年 | ロンドン、インド、日本、シンガポールなどを回り、様々な物を輸送する。 |
1883年 | 羊毛輸送のため、初めてオーストラリアへ出航。 |
1885年 | シドニーからロンドンまで73日で移動し、最速航海記録を更新する。 |
1895年 | ポルトガルの J.フェレイラ社に売却され、「フェレイラ号」に改名される。 |
1895〜1922年 | 欧州、アフリカの国々及び米国に様々な物を輸送する。 |
1922年 | 別のポルトガルの会社に売却される。 |
イングランド・コーンウォール在住の元船長に売却され、英国に戻る。 その後1938年までカティ・サーク号はコーンウォールの港に停泊する。 |
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1938年 | 船員訓練学校に寄付され、イングランド南東部ケント沖で訓練船として使われる。 |
1951年 | 「カティ・サーク保存協会」が設置される。創設者の一人はエリザベス女王の夫、エディンバラ公。 |
1954年 | ロンドン南東部グリニッジに移される。 |
1957年 | グリニッジでの一般公開開始。 |
2006年 | 修復プロジェクトが開始。 |
2007年 | 大規模な火災に見舞われ、修復プロジェクトは資金の追加と遅れを余儀なくされる。 |
2012年4月26日 | 修復工事完了を受け、一般公開を再開。 |
カティ・サーク号見学に関する情報
見学時間 | 10時〜17時(最終入場時間16時) | |
2012年11月までの定休日 | 月曜日(バンク・ホリデーを除く) | |
見学料 | 大人 | £12 |
子供(15歳以下) | £6.50 (5歳以下は無料) | |
学生、60歳以上 | £9.50 | |
家族チケット | 大人1人+子供2人 £20.00 大人2人+子供2人 £29.00 |
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チケット | オンライン | www.rmg.co.uk |
電話 | 020 8312 66 0 8 | |
住所 | Cutty Sark Clipper Ship King William Walk, Greenwich, London SE10 9HT |
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最寄り駅 | Docklands Light Railway のCutty Sark for Maritime Greenwich |
2007年には大火災で被害
4月26日、現存する世界唯一のティー・クリッパー(茶葉輸送用快速帆船)であるカティ・サーク号の一般公開が、長年にわたる修復工事を経て、ロンドン南東部グリニッジ地区で再開された。建造から140年以上を経ているカティ・サーク号は、国営宝くじの収益金などを資金に、2006年から修復が行われていた。2007年5月には、修復作業で使用していた業務用掃除機が、スイッチが入ったままで放置されていたことが原因で大規模な火災に見舞われるという事故があったものの、ようやくこのほど、工事終了に漕ぎ着けた。修復費用は総額5000万ポンド(約65億円)に上ったという。
中国からの紅茶輸送用に建造
カティ・サーク号が建造されたのは、ヴィクトリア朝期の1869年である。当時の英国では、紅茶の需要増を背景として、海運業者が、新茶のシーズンごとに、中国からいかに速く新鮮な紅茶を快速帆船(クリッパー)で輸送できるかの競争を繰り広げていた。こうした中、カティ・サークも、そのような紅茶輸送用の帆船の一つとして建造されたのである。しかし、スエズ運河の開通とともに、帆船と違って移動を「貿易風(Trade Winds)」に頼らなくてよい汽船へと紅茶輸送の手段が移行すると、カティ・サーク号は、紅茶ではなく、石炭やひまし油、ジュート(黄麻)などの物品を、世界の様々な国へと運ぶのに使われるようになった。1880〜1890年代には、オーストラリアから英国へ羊毛を運び、両国間の最速航海記録を更新したことでも知られている。その後20世紀に入ってからは、船員の訓練船として使われ、更に1957年以降、グリニッジで展示されるようになった。
工夫された展示方法
冒頭で述べたように、カティ・サーク号は2007年に火災に遭ったが、それ以前に、甲板室や乗客用のラウンジ、マストなどは、修復作業のため既に船から取り外され、別の場所に移されており、被害を受けずに済んだ。修復工事では、雨や海水で痛んだ鉄製の船の骨組み部分のさびを取り、塗り直すなどの作業が行われた。船体の厚板の腐った部分は取り除かれ、新しい木材と取り替えられた。
こうした作業を経て公開されている現在のカティ・サーク号は、展示の方法が工夫されており、船の下半分は、天井がガラス張りの細長い建物にすっぽりと入った形になっている。この建物の中で、船体は何本もの金属の棒で横から支えられ、地上から3メートルほど持ち上げられている。このことによって、訪問者は、船の下も見ることができ、建造当時の最新の技術を駆使したカティ・サーク号の設計をより深く学べるようになっている。また、この細長い建物の内部は博物館になっており、80を超える船首像(船首に飾る人間や動物の像)などを見ることができる。更に、カティ・サーク号の歴史などを知ることができるインタラクティブな展示も用意されているという。ロンドン五輪や女王の即位60周年記念行事が行われる今年は、英国にとって歴史的な年であるが、そうした節目の年に、この国の最も重要な遺産の一つであるこの船について知ることで、英国の過去そして未来について思いを馳せてみるのも面白いかもしれない。
Heritage Lottery Fund(HLF)
国営宝くじの収益金を、英国の歴史的遺産の保護などを目的としたプロジェクトに補助金として分配することを役割とする文化・メディア・スポーツ省(DCMS)の外郭団体。国営宝くじ制度の導入を規定した「1993年国営宝くじ等法(National Lottery etc. Act 1993)」により、1994年に設置された。設置以降、現在までに、国内の3万3000ものプロジェクトに対し、計49億7000万ポンド(約6461億円)に上る補助金を交付している。今回のカティ・サーク号の修復は、HLFから総額2500万ポンド(約32億5000万円)の補助金を支給され、実施された。ウェブサイトは www.hlf.org.uk 。(猫山はるこ)
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