写真: 小林咲子
72のフロアにオフィスやフラット、展望台など
欧州最高層ビル「ザ・シャード」がお披露目
ロンドン在住者ならば、数年前からロンドン・ブリッジ付近で高層ビルが建設中であったことに気付いていた人も少なくないのではないだろうか。「ザ・シャード」と呼ばれるこのビルは、現時点で欧州で最も高いビルであり、構想から12年を経て、このほどようやく外装工事が終了した。
「ザ・シャード」に関する情報
住所 | 32 London Bridge Street, London SE1 9SY |
建設費 | 4億5000万ポンド(約553億5000万円) |
総床面積 | 311万平方メートル |
設計者 | レンゾ・ピアノ |
開発業者 | セラー不動産グループ(Sellar Property Group) |
主な建設業者 | メイス・グループ(Mace Group) |
展望台の入場料 | 大人24.95ポンド(約3000円)子供18.95ポンド(約2330円) (展望台は2013年2月オープン) |
ロンドンの高層ビル
名称 | 高さ | 場所 | 完工年 | |
---|---|---|---|---|
1 | ザ・シャード (The Shard) |
310メートル | ロンドン・ブリッジ付近 | 2012年 |
2 | ワン・カナダ・スクウェア (One Canada Square) |
235メートル | カナリー・ワーフ地区 | 1991年 |
3 | ヘロン・タワー (Heron Tower) |
230メートル | シティ・オブ・ロンドン | 2011年 |
4 | 8カナダ・スクウェア (8 Canada Square) |
199.51メートル | カナリー・ワーフ地区 | 2002年 |
4 | 25カナダ・スクウェア (25 Canada Square) |
199.51メートル | カナリー・ワーフ地区 | 2002年 |
6 | タワー42 (Tower 42) |
183メートル | シティ・オブ・ロンドン | 1980年 |
7 | 30セント・メリー・アクス (30 St Mary Axe) (通称「ガーキン」 |
179.80メートル | シティ・オブ・ロンドン | 2003年 |
8 | BTタワー (BT Tower) |
177メートル | グッジ・ストリート駅付近 | 1962年 |
9 | ブロードゲート・タワー (Broadgate Tower) |
161.25メートル | シティ・オブ・ロンドン | 2008年 |
10 | ワン・チャーチル・プレイス (One Churchill Place) |
156.34メートル | カナリー・ワーフ地区 | 2004年 |
「破片」を意味するビル名
今月5日、ロンドン中心部のロンドン・ブリッジ近くで、欧州で最も高いビル「ザ・シャード(The Shard)」の外装工事完了を受けたお披露目式典が行われた。同ビルは、イタリア人の著名建築家レンゾ・ピアノ氏が設計した高さ310メートルの建物で、教会の尖塔や船のマストをイメージしたピラミッド型の形が特徴。全面ガラス張りになっており、使われたガラス板の数は、ビル全体で計1万1000枚に上ったという。
ビル名の「シャード」とは、ガラスや瀬戸物などの「破片」を意味する単語である。5日夜のお披露目式典では、ロンドン交響楽団の生演奏をバックに、ロンドン・アイやタワー・ブリッジなどのロンドンの名所に向けて同ビルからレーザー光線が放たれ、ビル全体がライトアップされた。
中東のカタール国が大部分を所有
「ザ・シャード」の建設計画は、ロンドンを拠点とするセラー不動産グループのアービン・セラー会長が、この場所にあった25階建てのビルの再開発を決定したことから始まった。その後、2007年の金融危機の影響で、一時は計画破綻の危機に直面したが、2008年初頭、中東のカタール国のカタール国立銀行、カタール・イスラム銀行などで構成されるコンソーティアムが出資に合意し、計画続行が可能になった。こうした経緯を経て、「ザ・シャード」は現在、95%がカタール国の所有となっている。豊富な石油と天然ガス資源に恵まれた富裕国であるカタール国は近年、ロンドンの高級不動産を数多く取得しており、デパート「ハロッズ」や、メイフェア地区に位置する米国大使館の建物などを所有している。
セラー不動産グループはまた、「ザ・シャード」のすぐ近くに、17階建てのオフィス・ビル「ザ・プレイス(The Place)」を開発中である。同グループは、これら2つのビルの建設のほか、ロンドン・ブリッジ駅の改装、駅周辺の整備などによって、このエリアを「ロンドン・ブリッジ・クォーター」と呼ばれる近代的な商業地区に生まれ変わらせる再開発計画を進行中だ。
フラットの価格は数十億円と推定
冒頭で述べたように、今回行われたのは「ザ・シャード」の外装工事の終了を記念した式典であり、内装工事は現在も続けられている。内装が完成した暁には、地上階から72階までのフロアに、オフィス、レストラン、ホテル、フラット(マンション)、展望台が入ることになる。セラー不動産グループのセラー会長は、2014年までに全フロアが埋まるとの見込みを明らかにしている。フラットの売却価格は、一戸当たり3000万〜5000万ポンド(約36億9000万円〜61億5000万円)に達すると推定されており、カタール国の王族が住むのではと推測する報道もある。展望台は、68〜72階の5フロアを占めることになり、2013年2月にオープン予定である。
歴史的建造物を保存し、伝統を残しながらも、日々新たに進化するロンドン。「ザ・シャード」は、そうした新旧の時代が混在するロンドンの新たなシンボルと言って良いだろう。展望台がオープンした際にはぜひ足を運び、地上200数十メートルからのロンドンの絶景を楽しみたいものである。
Renzo Piano
レンゾ・ピアノ。イタリア人建築家。1937年生まれ。ミラノ工科大学卒業。1971〜77年、建築家リチャード・ロジャース氏とともに、ロンドンで建築事務所を運営し、フランス・パリの文化施設ポンピドゥー・センターなどを手掛ける。1981年、レンゾ・ピアノ・ビルディング・ワークショップをジェノヴァに設立。これまでに、プリツカー賞、AIAゴールドメダルなど数々の賞を受賞。関西国際空港旅客ターミナルビルを設計したことでも知られる。1990年代に行われたドイツ・ベルリンのポツダム広場再開発計画では、通称ダイムラー・シティと呼ばれるエリアの再開発基本計画を担った。(猫山はるこ)
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