大会はいよいよ終盤戦へ
ロンドン五輪の経済効果とは?
夏季ロンドン五輪がいよいよ終盤戦に入った。五輪終了後のあり方を考える時期が到来したとも言えよう。果たして、五輪招致はロンドンや英国全体にとって、どんな経済効果をもたらすのだろうか。2005 年に開催が決まった時点から大会閉会後の数年間までの長期的な影響を推定してみた。
英国におけるロンドン五輪の経済効果
Source: The Economic Impact of the London 2012 by Oxford Economics
五輪施設建設で雇用された元失業者たちの居住地域
居住地 | 人数 |
全体に占める割合 |
---|---|---|
グリニッジ | 244 | 8% |
ハックニー | 397 | 13% |
ニューアム | 671 | 22% |
タワー・ハムレッツ | 397 | 13% |
ウォルサム・フォレスト | 427 | 14% |
バーキング・アンド・ダゲナム | 122 | 4% |
そのほかのロンドン地域 | 739 | 26% |
合計 | 2997 |
Source: The London Organising Committee of the Olympic and Paralympic Games
経済効果の恩恵を受ける地域
(期間: 2005〜2017年)地域名 | 全体に占める割合 |
---|---|
ロンドン | 41% |
イングランド南東部 | 9% |
イングランド北東部 | 7% |
イングランド東部 | 6% |
スコットランド | 6% |
ウェスト・ミッドランズ | 6% |
ヨークシャー・アンド・ザ・ハンバー | 6% |
イングランド南西部 | 6% |
イースト・ミッドランズ | 5% |
そのほかの地域 | 8% |
Souce: The Economic Impact of the London 2012 by Oxford Economics
GDP への波及効果は165億ポンド
ロンドン五輪は英国経済にどれほどの波及効果をもたらすのだろうか。7月上旬に発表された、大手銀ロイズ・バンキング・グループによる調査報告書「ロンドン2012の経済効果—オリンピックとパラリンピック」の中から要点を拾ってみた。
報告書が調査対象としたのは、ロンドンが五輪開催地と決まった2005年から2017年までの12年間。この間に165億ポンド(約2兆円)の経済効果が新たに生み出されるという。そのうちの約57% が開催のために建設された施設に由来し、閉会後に作業を行う建設業が24%、五輪に絡んだ観光業が12%、大会運営・開催費が6% を占める。
ロンドン及び英国全体で6万2200人分の雇用が生み出される。経済効果の60億ポンド分はロンドンで、105億ポンド分がそのほかの地方で発生するため、波及効果は英国全体となる。報告書によれば、大会施設の建設を担当したオリンピック実行委員会(ODA)が英国の建設業者と交わした800件の契約の中ではロンドンの業者が25% を占めたのに対し、残りがロンドン以外の業者であった。
観光客は1000万人以上増加
2017年末までに、観光業は20億ポンドの国内総生産(GDP)を生み出す。そのうちの3% は五輪開催前、49% が開催中、48% が閉会後での効果だ。約1000万人が五輪観戦を目的としてロンドンを訪れると予想されており、そのうちの12%(約120万人)は海外からの旅行客。2017年までに五輪がらみで訪英する人が約1080万人増えると予想されている。混雑したロンドンを嫌って国内のほかの地方を訪れる人も増える見込みだ。
五輪関連のビジネスで利を得るのは大企業だけではない。ロンドン・オリンピック組織委員会(LOCOG)によると、LOCOG と契約を交わした企業の72% が中小企業である。また複数の調査によれば、大きなイベントを開催した場合には開催国の国民の中に「幸福感」(Feel Good Factor)が生まれる。調査報告書は、こうした幸福感が消費につながる場合もあるとし、国民一人当たり少なくとも165ポンド相当の贈り物をする可能性があるとしている。
大会が生み出すさらなる経済効果とは
この報告書は12年間という長期的な視野における推測だが、一部では「楽観的過ぎる」という批判が出た。しかし、広大な自然公園となるオリンピック・パークの出現や住宅・雇用の機会の提供など、様々な環境が大きく変わったことは確かだ。
五輪施設建設のために雇用された人の中で元失業者は約3000人。閉会後はオリンピック・ビレッジ内に3000戸前後の低価格の住宅ができる。これは近辺の住民の生活水準を上げ、さらには「健康状態の改善、医療費の減少、犯罪率の低下」(報告書)につながる可能性があるという。
環境面に配慮しながら競技施設を建設し、競技運営のみならず、開催期間終了後の活用法まで計画して実行した英国流の五輪開催の方法は、一つのビジネス・モデルとして、また都市計画の一つとして世界に広める価値があるだろう。英国の強みをまた増やしたことで、計り知れない経済効果が生み出されるかもしれない。
Olympic Budget
五輪の開催予算。2012年開催のロンドン五輪に関しては、招致活動の最中に提出した予算が約24億ポンド(今年7月末計算で約2960億円)だったが、後に警備費などを入れたことでこの数字が膨らんだ。2007年に算出し直した額が93億2500万ポンドになると発表し、最終的には予算内の92億9800万ポンドに収まることになった。財源は中央政府(62億4800万ポンド)、ロンドン市(8億7500万ポンド)、宝くじ(21億7500万ポンド)。使途は会場用地のインフラ整備、五輪競技施設の建設、警備費、交通費、公園設置、メディア・センターの建設など。(小林恭子)
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