イザ・カヴェジヤさん
Social Anthropologist
- 肩書き
- オックスフォード大学 社会人類学科講師
社会人類学者 - 経歴
- 1983年4月19日生まれ、ポーランド南部クラクフ出身、ザグレブ大学人文社会学部社会人類学科卒、同大では加えて日本語を履修。2007年にオックスフォード大学大学院社会人類学部修了、13年に同大社会文化人類学研究所にて文化人類学博士課程修了。14~15年におけるセインズベリー日本藝術研究所のロバート・アンド・リサ・セインズベリー・フェロー。日本をテーマとした社会人類学的なアプローチを中心に「人生の選択肢」や「希望」などについて広く研究活動を行っている。
www.isca.ox.ac.uk/about-us/staff/academic/dr-iza-kavedzija
大阪に住む高齢者を調査
研究テーマの一つは「希望」
研究活動の一環として日本に長期滞在したことがあると聞きました。
一般的に言って、社会人類学者は自身が生まれ育った環境とは異なる社会に興味を覚えます。様々な違いに触れることで、これまで当たり前だと思っていた物事を改めて見直すきっかけとなるからです。科学技術が発達し、高度に都市化され、識字率が非常に高く、欧州とは文化的に大きく異なる日本という国を魅力的に感じる人はほかにもたくさんいるのではないでしょうか。ちなみに私が研究を行うため暮らしていたのは大阪です。活気があると同時にくつろいだ雰囲気にあふれた大阪という街が今では大好きになりました。今後、何度も再訪することになるでしょう。
主な研究テーマが「人生の選択肢」や「希望」など非常にユニークですね。
確かに「人生の選択」や「幸せとは何か」といったテーマは、体系的な学術研究の対象にはなり得ないと見る向きも少なからずあると思います。ただ「どうすればより良い人生を送ることができるか」という問いは、たとえ直接的ではないにせよ、大部分の社会科学研究を根底から支えてきたということも事実です。
私はこのテーマについての研究を行うため、大阪で暮らす高齢者が何を生き甲斐として感じているかを調査しました。そして1年以上かけて聞き取り調査を行う中で、誰かと話をすることは、彼らの人生において起きた様々な出来事を意味づける上で非常に重要であると実感するに至ったのです。ただし、過去を振り返ってばかりいると思考が内向きとなり、自らに対して過剰なまでに批判的になる傾向があります。だから日常の雑事に追われたり、他愛ない会話を交わしたりすることで、遠い未来や過去についての不安や心配をしばし忘れることもとても大事。結局のところ、良い人生を送るとは、自分の身に起きた様々な出来事を振り返るということと、「今を生きている」と実感するという、見方によっては相反する二つの行為のバランスを取るということなのかもしれません。
現代の日本には「希望がない」との見方を示す識者たちもいます。
いくつかの社会科学研究は、希望とは個人的な感情だけではなく、社会的資源であることを示しています。言い方を変えると、個々の人間が希望を持てるかどうかは、周囲の人々がどれほどの希望を持っているかに左右されるということです。
ただ注目すべきは、最も希望が持てないような場所でこそ、実は希望は広がっていきやすいという点。天災が起きた後のボランティア活動や急速な高齢化に直面した地域での助け合いを通じて希望がどんどん広がっていくというのが好例でしょう。どうやら他者の役に立とうとすればするほど、人間は希望を膨らませていくようになるようです。ただし、排他的な集団が生み出す希望は、本来の意味での希望ではないし、危険でさえあると思います。社会に広く共有されたときにこそ、希望は最も有用なものとなるのではないでしょうか。
私の研究活動
現代日本における希望
ドイツの老舗学術出版社バルター・デ・グルイター社が発行する学術誌「Contemporary Japan」において、「日本における希望の民族誌学」をテーマとした特別号の編集長を務めました。同号に寄稿された論文はオンライン上で無料閲覧できます。ご興味のある方は下記リンク先よりご覧ください。
www.degruyter.com/view/j/cj.2016.28.issue-1/issue-files/cj.2016.28.issue-1.xml
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