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Sat, 23 November 2024

第42回 トマス・B・マコーリー

トマス・B・マコーリー

探偵とか刑事とか、人と見ればまずは疑ってかかる立場を匂わせる発言である。そこに語られた内容は、至極ごもっともというか、誰が見ても確かにその通りには違いないのだが、敢て人間の影の部分を抽出してものを言う感じの暗さ、意地の悪さが、すっきりしない感情のしこりを残す。

発言者は、マコーリーという陸相まで務めた19世紀の政治家である。「英国史」など、歴史書の著述でも知られた。この時代のイギリスは、世界に冠たる大英帝国として、7つの海に覇権を伸ばした。マコーリーもインド総督参事会の立法委員として植民地の法制改革に努めるなど、世界に覇を唱える大英帝国の一翼を担った。

そう思って今回の名言を見れば、やはりそこには、インドの植民地経営に象徴される、栄華と繁栄への道を登りつめる一方で、この時代が抱えていた負の部分を、色濃く反映しているように感じる。植民地経営などというものは、いかなる美辞麗句を掲げようとも、闇世界が横行し、人間性の影の部分が横溢する。まさしく、人に知られぬところでは何をしでかすかわからないゴロツキどもが、百鬼夜行することになるのだ。

少し時代は下るが、ヴィクトリア朝ロンドンを舞台に名探偵が活躍するシャーロック・ホームズの物語でも、犯人はしばしばインドなどの植民地や外地の出身で、邪悪な陰謀や欲がらみの因縁を帝都にまで持ち込んだケースが目立つ。探偵のようなマコーリーの発言が、ホームズ物語と妙に帳尻の合う次第となったのは、決して偶然ではない。

さて、植民地経営にも覇権主義にも縁のないはずの現代日本で、私はしばしばこのマコーリーの言葉の真実を納得させられる。とにかく偽ばやり、嘘ばやりの日本である。省庁から製造業、メディアにいたるまで、あらゆるところで不祥事の続出である。人に見られなければ、露見さえしなければ、何をやっても構わないとするような虚偽が蔓延してしまっているのだ。罪が発覚すれば、すわ経営者の土下座。日々のテレビニュースを賑わす、最も恥ずべき祖国の姿である。

実を言うと私は、他人には見られぬところで人さまが何をしていようと、それが犯罪でさえなければ、一向に構わない。私は探偵も秘密警察も嫌いだ。ビッグブラザーのように、プライバシーのすべてが監視される社会など、御免こうむる。健全なる個人主義がきちんと認められる社会を保持するためにも、公に生きる個々のモラルは高くなければならない。マコーリーの言葉が、自制心に響くうちはよいが、他者を見る眼差しと合一して大手を振るようなら、そら恐ろしい。

 

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