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Sat, 23 November 2024

第6回 米国の光と影(3)

気になる政治経済現象

世界経済や政治の行方という観点から進行中の、気になる出来事を下の表1に挙げてみる。

これらの出来事は、一見しただけではそれぞれ関係なさそうでもあるし、結局は歴史の審判を待つほかない。しかし自分なりになぜこうした事象が生じているのか、原因を考えてみるといくつか思いあたる(表2)。

世界秩序は、その骨格となる思想と、それを実現する強大な政治・経済力によって構築される。第二次大戦後の秩序、例えばブレトンウッズ体制は、英国の経済学者ケインズの構想と米国の力により実現できた。共産主義崩壊後の秩序は、資本主義の貫徹というレーガン、サッチャーの思想(そもそも思想といえるかどうかの議論もあるが)による英米の秩序である。こうして生まれた貧富の差が拡大し抑圧が極限化した状態は、それ以前にもなかったわけではない。昔はもっと極端であったとも言える。今昔の相違は、現在では軍事技術の「民生化」により、また交通手段やコミュニケーションのネットワーク拡大により、貧しい者でも容易に社会システムを攻撃できるという点である。貧しい者の抵抗はテロという形になり(自爆という点まで行くには、宗教的な触媒によるジャンプが必要と思うが)、社会に対して大きなコストになる(諸兄姉も、忘れ物一つで毎日地下鉄が30分も止まるこのごろにはいい加減うんざりしているのではないだろうか)。ロボットやバイオが民生化されればテロはもっと容易になるであろう。こうした状態に多くの人が何か行き詰まりを感じているのではないか。

米国のリーダーシップ不在と今後の展開

これまでのところ、超大国米国のリーダーシップは、軍事力という形でしか発揮されていない。経済や秩序構築の思想ではブッシュ政権は見るべきものがない。例えば、人民元切り上げ後の通貨システムについてケインズのような構想を米国が発表しているわけではないし、G7でもリーダーシップをとった節はない。ブッシュ氏は、テロの因果が米国側にもあることに思いを致さない。では、ブッシュ氏の次に期待できるのか?(クリントン氏は結構世界ビジョンについて語っていたが)。

多分、もう米国だけに期待することはできない時代がそこに来ていると思う。一方で、ブレア氏はG8で環境問題やアフリカを取り上げるなど非凡なセンスを持っていると思うが、英国も一国で世界秩序を作る力はない。コモンウエルスは隠然たる力を持つし、EUも大きな力を持つが単独で力を持ってはいない。

前回も述べたがパクスアメリカーナの終わりが始まっている。インターネットほか、民生化された高度のコミュニケーション手段、商売、取引の手段が一段と拡大すれば個人個人のネットワークがますます重みを増す。国家や企業の存在や役割は、もちろんなくならないが、役割は相対的には小さくなる。いま一度、18世紀以来の国民国家を基軸とした世界秩序を考え直す時ではないか。一国家ではなくて、国家同士の取り決めや国際機関、それによって立つ国際世論が世界秩序を作る重要な源泉になる時代が来ている。その時、世論はマスコミのみによって形成されるのではなく、自分の頭で考えた個人とそのネットワークにより形成されねばならない。100年単位の話ではあるが、これができなければ、ホッブスのいう「万人の万人に対する競争状態」が生じてしまい、それは国家の名の下の全体主義の再現につながりかねない。

そう考えると、米国が、英国が、中国が、という議論が生産的でなくなることも増えてこよう。そういうときに英国人の歴史、国際感覚、常識のセンスには学ぶべきものが多い。英国は、米国やフランスが批判するようにテロリストやイスラム過激派の言説に甘い国だと思う。しかし、自由な言説こそ世論形成の肝であり、そうした世論が一国の民主主義的な過程を通じて(世界政府がない以上、ここに国家の役割が残る)、国家の役割を限定する一方、世界世論を形成してゆく。その意味で、ロンドンテロ後のブッシュ氏とブレア氏の演説は好対照をなす。ブッシュ氏は、民主主義は日独ファシズムと共産主義を破り、秩序を乱すテロも必ず息の根を止めるとする。一方ブレア氏は、テロは認めないが、人種の坩堝ロンドンを例に民主主義においてイスラムも含む多様性とその力を強調している。米国流の星条旗と大統領に象徴される民主主義「国家」に忠誠を誓う民主主義にしっくり来ないものを感じ始めているのは僕だけであろうか。

中東、イラク、アフガニスタン全部もともと英国帝国主義のまいた種であり、ちょっとずるいと思うのだが、英国人における民主主義の歴史的深さ、法の支配などの定着やイスラム社会自身にも解決を求める実務的な巧さは、ますます今後世界で光を増すと思う。もちろん、平均的な資質の高さ、勤勉さは日本人が世界に誇れる資質であるが、英国の国家やマスコミ、そして何より英国人に学ぶべき点は、まだまだ多い。

(2007年7月18日脱稿)

 

Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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