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Thu, 28 March 2024

第13回 アフリカの飢えと貧困(2)

世界経済の環の最も弱い部分

90年代以降のモノとサービス、マネーの世界的な循環の拡大は、アフリカをもその大きな環の中に巻き込んでいる。中国、インドの台頭は資源価格(特に原油)を高騰させ、その収入を巡る部族対立をアフリカに引き起こしたし、食糧価格の高騰は、豊作の場所にも飢えをもたらしている。さらに食糧不足の大きな原因としてサハラ砂漠以南の大きな気候変動があり、これは熱帯雨林の伐採の影響が大きいといわれている。 昨年のノーベル平和賞に、77年以来ケニアで植林運動を行なってきたワンガリ・マータイさんが選ばれたことは記憶に新しい。こうしてみると、アフリカに世界経済の病理が集約されている。世界的な経済圏の統合が進めば、その環の最も弱いところに病理が先鋭的に現れる。米国の弱い環はニューオーリンズの黒人(カトリーナ)だったし、英国では移民(テロ)、中国ではエネルギー不足から無理な労働を強いられる炭鉱労働者(頻繁な大規模事故)、そして世界では、アフリカの慢性的な貧困と飢えである。

サミットG8での対応

スコットランドの牧師の息子ブラウン蔵相は、アフリカ問題に強い関心を持っているといわれている。 今夏のG7で英国は、

  • IMF、世界銀行など国際機関保有の最貧国向け債権の先進国による肩代わりと減免(いわば借金棒引き)
  • 先進国による将来の援助継続約束を担保に、新たに作る基金が債券を発行し、その代わり金を最貧国に貸出(いわば援助の前倒し)
  • 最貧国の輸出拡大のためWTO新ラウンド(世界の貿易ルールを決める)で先進国の国内農業補助金削減など2015年までに10兆円近い支援を実施、などを提案。

1は実現へと向かっているが、後の2つは難航している。もともと借金を返せる経済状態ではないのだから借金棒引きのみでは問題は解決しない。

慢性的な貧困と飢えをどうするかが根本問題であり、これにはきめ細かなひとつひとつの施策が必要になる。G8のような大雑把な会議にはあまり向かないテーマではないか。

ヒントはアジアに

経済が成長すれば、貧困の問題は自動的になくなる。もちろん先進国でも地球温暖化が持続的な経済成長を難しくするといわれているように、環境問題も同時に配慮が必要である。経済成長も環境問題も、借金の棒引きや相手を選ばない食糧援助では解決にならない。結局はヒトがきっちり働くことが富を生み出すのである。そうであれば雇用=仕事の場を作ることが原点であるべきである。

アジアでは、インドや中国の貧困は克服されつつある。そしてそのモデルはわが国日本であった。江戸時代からの識字率の高さを前提として、明治政府は官営工場を各地に設立し、雇用のモデルを作った。中国の躍進も最初は国営企業からである。

公的雇用が導入部分を果たすことで、現金収入を国民に与え、市場メカニズムを通じて民間企業を育て、公的部門は徐々に役割を縮小する。働いて所得を得て、それで生活に必要なものを買う、そしてその代金は他の人の所得になる。この先進国ならあたりまえの循環こそ経済発展の鍵である。

なぜなら、そこには金を使うことによる国民の選択があるからであり、外国や政府のお仕着せや強制の余地が小さくなるからである。

これから進むべき道

最大の問題は、援助が公的な雇用を生むように使われていくためにどうすればよいかである。また往々にして非効率となる政府が、いかに効率的な経営を行なえるようにするかが問題である。援助国による監視もよいが、それでは自立が望めない。最貧国における民主主義が必要なゆえんである。民主主義のないところでは、最貧国の最底辺の人は、飢饉のときには死ぬ以外に道がなくなる。民主主義は、国民の積極的な参加があってこそ機能する。

そうだとすると援助は、雇用に加え、医療や公衆衛生はいうまでもなく、長い目で見て教育にも使われる必要がある。その上で社会の木鐸としての健全なマスコミが必要である。民衆の声なき声を吸い上げるのはマスコミであり、それが政府の独善を防ぎ、民主主義が狭隘きょうあいなナショナリズムに陥るのを防ぐ。ジンバブエでは、独裁者ムガベが依然国民の絶大なる人気を誇っている。情報公開が必要なゆえんである。

こう考えてくると、大きな公的部門、画一的な教育、競争のないマスコミ、政治家任せで自ら問題提起することの少ない国民と言う点で日本はまだまだ発展途上であるし、公的教育への支出を大きく削減したサッチャー改革への評価もまだ早いと考えるのは僕だけであろうか。世界経済の環のもっとも弱いアフリカは、先進国の病理の鏡でもある。その双対性を忘れてはなるまい。

(2005年11月3日脱稿)

 
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