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Thu, 21 November 2024

第52回 影の薄い日本の金融(いや日本そのもの)

ロンドンで影の薄い日本の金融

最近、金融市場関係者と話していてつくづく日本の金融は影が薄くなったと感じる。1980年代のロンドン市場では、外国為替市場はもとより、各種債券の発行、引き受け市場では、邦銀や邦証(日本の証券会社)が取引の3分の1以上を占め、関係者の集まりも60社近くあったと聞いている。最近バブルの処理が終了しつつあることからロンドンに再進出する先も見られ始めたが、それでも20社には満たない。日本人のための日本料理店の盛衰は皆様もご存知であろう。もちろん、今や日本料理店は日本人のためというよりもシティで働く金融関係者たちのお好みとなって地位を確立している。一方、金融界はまだまだという感じである。邦銀は、資金面では欧米銀の顧客であるし(もはやプレイヤーではない)、証券会社では、野村證券ですら総合力で見ると一流に今二歩である。

これには2つの原因がある。1つは、バブル崩壊により日本の金融機関が国際業務から国内業務に資源を一斉にシフトしたつけである。一旦失った顧客、人的つながりを取り戻すことは容易ではない。もう1つは、日本の経済規模自体が中国とインドに間違いなく抜かれるという状況である。規模で中印に引けを取り、成長性の高さでBRICS*1、VISTA*2諸国などに劣後する。今や注目される金融政策の出所は米国の中央銀行である連邦準備制度(FRB)、欧州中央銀行(ECB)に加えて中国人民銀行であって、日銀ではない。円はあまりに金利が低いので、世界的な投資のための調達資金として使われており、その限りでのみ広い関心を持たれているに過ぎない。

勝負の土俵はどこか

日本の経済全体の問題は別に書くとして、ここでは個別金融機関のあり方について考えたい。参考になるのがスコットランド銀行史である。ご存知のように、今でもロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)やスコットランド銀行は、イングランド銀行と異なる銀行券を発行している。流通量も3%程度とわずかだが、れっきとした通貨だ。

最初はグラスゴーとエジンバラではさらに別の手形が使われていた。次にエジンバラでスコットランド全体で通用する通貨が作られ、次第にスコットランドとイングランドの経済が一体化するにつれロンドン間で決済される手形が発行されるようになった。これに伴い、グラスゴーでの銀行業が、エジンバラでのスコットランド全体をにらんだ銀行業になり、そしてロンドンでの英国を対象とした銀行業になった。

スコットランド経済圏のイングランドへの併呑ていどんは、イングランドにおける汽車の発達やロンドンで影の薄い日本の金融石炭の利用が急増した産業革命と密接な関連がある。金融機関は、相手とする経済活動に対応して活躍する土俵がある。その土俵は、経済活動の一体性とそれを決める交通手段や通信手段の発達、そして政治などにより規定されるという訳である。そして現在は、共産圏の崩壊とIT技術進歩によりグローバライゼーションが進み、英国の銀行は世界を相手にしているという訳だ。英国の金融機関は、最近ではバークレイズのABNアムロ(オランダの総合金融グループ)への買収提案、HSBCの米国でのサブプライム・ローン*3の焦付きの例をみるまでもなく、もはや英国内は地盤に過ぎず、全世界で勝負している。それでもスコットランドを対象にした通貨発行もまったく成り立たない訳ではない。ニッチがあるからだ。そうであれば、日本の金融機関も土俵を世界とするのか、日本とするのか、その地方とするのか、一村落とするのかを決めて、足りない部分は金融市場でリスクを売買して調整するというやり方も考えられる。まずは、どこで勝負するかを考えることが大事と思う。

イノベーションが必要

銀行業務や証券業務そのものでの技術革新を用いた、付加価値向上こそ不可欠だ。日本経済が拡大しないのに、その中でのパイの奪い合いは、ジリ貧しか意味しない。航空会社がM&Aにあうのは、戦後、航空機自体に技術革新がないからである。あったのは格安航空くらいだろう。技術革新ではやはり、ITによる大量データ処理、省力化とヒトによる顧客密着が鍵となる。お客の要望を大量処理で安く、しかも早く処理するインフラの構築こそ、まず取り組まれるべきであろう。そして問題は、その中身に何を盛るかということだ。ただ世の中の移ろいが早いので、中身に関してはスピードある変化が必要になる。そうであれば、IT投資、人材投資における「将来拡張性の確保」がキーワードではないか。

(2007年5月1日脱稿)

 

Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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