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日経電子版Pro
Sat, 17 April 2021

第54回 今後徐々に苦しくなる英国経済─ブラウン氏の正念場とEU接近

英国経済の行方

ブラウン氏は、ブレア氏に比べると強運とは言えない。英国経済は、今後これまでのような好景気、拡大から、次第に苦しくなると予想されるからだ。失業率がじわじわ上がってきている(図表1)。足許は5.5%近傍で横這っているが、先行指標である就業率が一段と下がってきた(図表2)。職を辞めれば就業率は下がるが、就職を諦めれば失業率には反映されない。就業率の低下は注目されるべき項目である。
一方で、景気を梃入れするための財政出動余地は、かなり小さくなっている。サッチャー改革後とブレア政権の前半、英国経済は米国、欧州経済の拡大と重なって好景気を謳歌した。その後、財政赤字が縮小したことを受け、ブレア、ブラウンは、サッチャー改革による福祉、教育の切り詰めに対する不満へも対処すべく財政赤字を再拡大してきた(図表3)。この財政赤字が結果として2000年以降の景気を支え、グローバリゼーションにおけるロンドンの地位拡大とも相まって、英国の景気を長らえさせてきた。
しかし財政赤字は、このまま拡大すればサッチャー改革の意義を半減させかねないところまできた。富の偏在はあるものの、結果として富んだのは政府ではなくて英国民、家計である。これでは財政出動が難しくなり、これが地下鉄は言うまでもなく他の公共料金の値上げにもつながっているし、3月の公務員賃上げ抑制の背景にもなっている。昨年10月の定年無効法も、この文脈で考えれば年金支出の抑制を意味する。

ブラウン氏の政策

ブラウン氏は自ら動きが取りにくい。これまでの金利引き上げにより、引き下げ余地を蓄えたイングランド銀行への利下げ期待は政府サイドから高まるであろう。しかし、原油価格が4月以降リバウンドしていることから物価がインフレ目標値を超えて推移している今、大幅な利下げは難しい。財政金融両面でてこ入れが難しいとなると、英国経済は欧州や世界の動向の影響をそのまま受けることになり、脆弱性を増す。

一段の公共部門の効率性確保のための思い切った政策が必要と思われるが、ブラウン氏の政策からは、そういった思い切ったものは何も聞こえてこない可能性が高い。オリンピック向けの工事がピークアウトする2011年までは何とかなるかも知れないが、それ以降を展望できる絵は描かれていない。金融で言えば、ウインブルドン方式は、人が来なくなったらおしまいである。常に何か新しいイノベーションを興していなければならないが、それは何だろうか。英国の地方自治体では、各種プロジェクトにおけるコスト削減のためサービス・レベルの低下が著しいという。しかしこれでは本末転倒だ。人件費を抑えずに、サービス・レベルを落としては、パブラウン氏の政策ブリックが泣く。この難問のブレイクこそブラウン氏の正念場だ。

経済が苦しくなった時の英国の動き

ITを始めとする大きなイノベーションは米国で起こっている。ロンドン市場ははるかにNY市場より自由で、イノベーションがないわけではないが、独創性という点ではNYと比べてどうか。経済が左舞になったときに、結局英国はどういう途をとるか。シティ優遇策などロンドン市場を大事にすることは間違いないが、さらに確実なのがEU接近である。ポンドが切り下がるようなことになればイングランド銀行の命運は危うくなる。しかし、それでは他力本願であり、自国の中央銀行を廃止した本人として、後世からブラウン氏は評価されることはなくなるだろう。結局、歴史は形を変えて繰り返してくると強く感じるこの頃である。

(2007年6月2日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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