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日経電子版Pro
Sat, 17 April 2021

第59回 これからの市場の変貌

サザビーズの変化

サザビーズのオークションに行かれたことがあるだろうか。ニュー・ボンド・ストリートにあって、誰でも入れて、オークションを見学できるし、参加もできる。出品カタログも売っている。2年前にワイン商に連れられて訪問した際には、100ポンド程度のワインもオークションにかかっていた。

ただ今では以前と比べオークションの開催数は減り、取引金額は高めになってきているという。8月13日付の「ファイナンシャル・タイムズ」紙によれば、サザビーズは主力の入札対象商品を絵画やアンティ-クに絞るほか、単価が5000ポンド(約110万円)以上のものに集中するように舵を切っており、これ以外の安い商品をあまり扱わないようにしているそうだ。手間を減らすことで、従業員やセリ人を減らし、コスト削減を図りつつ、大きなロットで収入を維持しようということだろう。かつては売上高で圧倒していたライバル、クリスティーズはフランス人オーナーの下で米国に進出。不動産も含めて扱う商品は多様、かつ価格層も多彩となっていることから、サザビーズでは逆に資源集中による収益性の安定を図ろうとしていると解される。

オークション業界においては、eBAYを始めとするネット・オークションが最初脅威と考えられていた。ただ最近では素人が出品し、素人が買う世界と、プロを雇った貴族や金持ちが出品し、プロを雇った金持ちが買う世界とは自ずと住み分けられるということで、危機感は薄らいでいるように伺える。しかし、いつまでも安閑としていられるであろうか。ネット・オークションの弱点は、商品の価値の真正性とセキュリティであろう。しかしこれらは買い手が「ネット・オークションでの真正性やセキュリティはその程度」と覚悟するなら割り切れない話ではない。また利用者が増えるのに合わせてセキュリティ面ではIT技術、法制が日進月歩で進歩しつつあり、若い世代は抵抗感を持たなくなりつつある。

合従連衡とネット株式市場

ところで、各国の証券取引所においても変化が起きている。昨年来ロンドン証券取引所がNY証券取引所やドイツ証券取引所から提携、株式取得提案を受けたり、東京証券取引所がロンドン証券取引所と業務提携を発表したり、世界的なM&Aの動きが顕著なのだ。このほか証券取引所や金融取引所の手数料が高いとの理由で、欧州の有力銀行が自前で取引市場を作り取引所を迂回して決済をしてしまおうという動きもある。従来は確実な取引や決済は取引所でしか行えなかったが、現在ではIT投資を十分行えば、取引所でなければオークションができないという事態はなくなりつつあるからだ。そこで既存の取引所は、規模の利益を求めて合従連衡を画策している。ロンドン証券取引所に人気が集まるのは、ロンドンという金融市場をバックにしているという利点のみならず、IT投資額が大きく、約定確認や決済システムとのリンクに優れているという背景がある。

オークションと株式取引所

一見するとオークションと株式取引所には直接何の関係もないようだが、IT技術の進歩で、プロとアマの区別があいまいになり、従来の住み分けがしにくくなってきた例という点では共通である。これまでは、確かに株式が企業の資本を分割したものであるだけに商品の同一性が高い一方、オークションは個別性が高く、鑑定力がものを言うケースが多かった。しかし、eBAYでもチケットのような同種の商品を大量に売ることは可能だし、特に高価な商品には鑑定や保険がつくこともあり、規制がある取引所との境界は次第にあいまいになってきている。ちなみにオークションでも株式取引でも一番儲かるのは、賭博と同じ胴元である。リスクなしに口銭を取るからである。

鍵はIT投資をする資本力である。個人にはこの点が難しいが、米国ではネット証券会社がこうした投資を個人から募り、ベンチャー・キャピタルに投資することもよく行われている。社会的にはセキュリティ面の確保が取引の安全、安定に不可欠となるが、この点は取引が大々的に行われれば、市場が悪質業者を淘汰するか、または政府が介入せざるを得なくなるものだ。電話、計算機、カメラが携帯になり、ラジオ、ワープロ、テレビ、ビデオがパソコンになり、そのパソコンも携帯に近付きつつある。いつ実現するかわからないが、ことごとく取引はWEBベースに集約できるし、そうなっていくであろうと予想する。原理は同じだからだ。その上でサザビーズの生き残る部分は伝統や文化を重んじる英国の岩盤部分になる。その大小がどれくらいか興味深い。そうしたことを読んだ上で、企業は投資行動、取引行動をするべきではないかと「ファイナンシャル・タイムズ」の記事を読んで考えた。

(07年8月15日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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