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日経電子版Pro
Sun, 18 April 2021

第67回 英国経済モデルの今後と地方経済

英国経済のアキレス健

サブプライム・ローン問題で米国景気の後退、特に金融業ブームの一服、さらに金融規制のあり方が今後大きく取り上げられると見られる。「グローバリゼーションは英国経済モデルの勝利」との英国の主張が裏目に出る恐れがある。英国の金融はアフリカやアジアに深く食い込みつつあるが、世界経済全体が冷え込んだ時に耐えられるか否かはまだ試されていない。景気拡大局面 を過ごしたブレア首相は幸運であった。ブラウン首相はこれから試練を迎えよう。

図1英国経済の強さと同時に、そのアキレス 腱となるのがロンドンである。図1を見ると、 ここ10年で英国経済に占めるロンドン、そしてロンドンと密接に関係がある南東部の経済活動(付加価値)のウエイトが上昇していることが分かる。足許ではロンドンが約17%、南東部を合わせると3割強になる。

図2はロンドン経済に占める産業別の経済活動(付加価値)のウエイトである。製造業が8%まで下がる一方、不動産業と金融業のウエイトがじわじわ上がり、それぞれ35%、20%で、両者を合わせると55%。ロンドン経済の大半はファイナンスに関係があり、その傾向はここ10年で一段と強まっている。これが家賃の高さ、そしてそうした家賃が払える人が住む町だからこその物価の高さ、ひいてはポンド高の主因である。バブル現象として象徴的ともいえるのだが、ブラックキャブの運転手さんがイタリアやスペインに2軒の別荘を建ててゴルフ三昧をしていると言っていたが、それはどこか変なのだ。したがってこうしたメカニズムが逆転すれば、ポンド安、物価下落、家賃反落、不動産、金融業の低迷、そこでの雇用の減少につながる。 これはロンドンの繁栄を反転させかねない。

英国が取り得る対応

金融の世界は世界経済と密接に関係している。特にロンドンの金融はそうした色彩が強い。このため、金融システムに何か問題があった場合、英国が単独で対応するには限界がある。「米国経済の落ち込みはアジアなど新興国の消費拡大でカバーする」というデカップリング論が唱えられているが、この理屈には無理を感じる。そもそも中国やインドの主な貿易相手国は米国だ。経済の行方についてリスクが大き過ぎるので、ノーザン・ロックの買収に大手銀行は手を上げられない。

ブラウン首相は当面、公共事業を行わざるを得ないと思う。このため財政演説は少し緩んだものになる可能性が高い。その上 で貿易黒字を溜め込んだ産油国、とりわけ中東諸国、中国、インドなどからの投資を促進することになるだろう。サウジ国王が訪問した時の歓迎振りも露骨なほどであった。来年ブラウン首相は外訪回数を増やすのではないか。腰が重いようだと経済面から徐々に苦しくなっていく。そして引き続きイングランド銀行に対する利下げ圧力は強まっていくだろう。

地方への期待

イングランドが85%(ロンドン圏で3割強)、スコットランドが8%、ウェールズと北アイルランドが4%弱ずつというのが英国経済の地域分布である。もちろんロンドンからの波及効果の大きさを考えればロンドンの金融、その金融からの家賃で食べている不動産業が不調になると、英国全体への影響は非常に大きなものとなろう。この経済規模では、スコットランドなど他地域は独立しても経済面からのみ見れば損のように見える。

しかし、グローバリゼーションは地方でも避けることはできない。これはどこの国でも同じである。エジンバラやダブリンに居を構えるファンドや保険会社、年金運用会社はこの10年間で相当増えた。情報交換の便利さを除けば、家賃の高いロンドンにいる必要はないと彼らは言う。大手金融機関が苦しむ中、生き残るファンドが地方に多ければ、ビジネス・モデルの見直しは必至である。地方の産業は公共事業、農業、観光そして大企業の工場というのがどの国でも相場なのだが、このモデルを克服できるか。

注目すべきは、ファンドが現在盛んに投資を行っている、大学と結びついたバイオ企業群である。製薬研究では英国は世界のトップを行く。なんとトップ50社中48社が英国に研究所を置いているそうだ。航空機で輸送可能な製品を扱ったり、インターネットや日本のリニアを活用して空間的な制約を越えたり出来れば、イングランドからの補助金を期待しないでやっていけるかどうか。こうした一種の社会実験は、循環的経済変動よりずっと刺激的である。

(07年12月10日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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