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Sat, 23 November 2024

第86回 消費税について議論のとき─福田退陣に寄せて

消費税は経済政策論の突破口

福田総理退陣を受けて、自由民主党の総裁選が始まった(この項が出る頃には大勢は決しているかもしれないが)。争点は、経済政策だ。対立軸は、自由主義的な小さな政府か、公共政策を重視する大きな政府か、ということである。そして大前提には、既に大きな財政赤字に今後の人口高齢化が加わり、将来の赤字拡大、下手をすれば国がデフォルトしかねないという事態がある。この前提から見ると、政府の大きさの大小問題以前に増税は必至とも思われる。

1970~80年代の英国におけるポンド急落時のサッチャー元首相の処方箋は、小さな政府であり、また北海油田の採掘開始が経済の回復を支えた。同様に日本政府は、近海でのメタンハイドレード(ゼリー状の液化天然ガス)開発に躍起だが、これを現時点で北海油田のように当てにしてよいかどうかは何とも言えない。幸い、日本の産業競争力は、当時の英国ほど落ち込んでおらず、貿易黒字や大きな外貨準備があるので、円安が急に進むことは、少なくともあと3年くらいはないだろう。しかし、金融市場の取引量とスピードは当時の比ではない。今後、サブプライム問題において、米国がファニーメイやフレディマックを救済する実力を示し、日本の政権党が財政赤字を縮小させる能力なしということになれば、円安が始まり、日本国債が徐々に売り込まれるリスクがある。

財政赤字の大きな日本にとって、もはや大きな政府は選択肢としては難しいと思われる。そこで焦点となるのは、小さな政府で消費税率を現行維持とするか、中くらいの政府で税率を上げるのか、という点ではなかろうか。消費税は、英国ではしばしば大きな政変を引き起こしている。17世紀に起こった清教徒革命は、国王の消費税導入に対する議会の反発がきっかけだったし、18世紀のウォルポール内閣は民衆暴動で消費税増撤回を余儀なくされた。消費税が政治問題化することは避けては通れない。

消費税の特色1: 逆進性

消費税、厳密に言うと付加価値税は、企業が(売上-仕入)×税率の金額を政府に納める仕組みである。この税率を売上に転嫁することができれば、その実質的な負担は最終的には消費者が負う。このため、消費税の第1の特色は、所得の高低に関わらず人間の消費が一定だとすると、低所得者ほど負担が大きくなる、いわゆる逆進的であるということである。政府の基本的な役割が、所得の大きい人から多めに税を取り、人間として最低限の安全や生活の保障をするために所得を再分配することだとすれば、逆進的な税は、小さな政府に相対的にはなじみやすい。大きな政府の最たるものは社会主義や共産主義であるが、そのような国では累進的課税方式を採用していることが多い。日本の場合、財政赤字の大きさから大きな政府は取りえないとすると、やはり消費税を考える余地は大きいと考えられる。

消費税の特色2: 徴税コストの安さ

消費税の第2の特色は、法人税や所得税と比べると、操作余地が小さいことである。法人税や所得税では、課税額の決定に会計的な操作性や裁量性が入り込む余地が大きく、企業の税務担当者や個人の税務申告などで課税コストが嵩む一方で、判断の巧拙に伴う税負担の不公平が生じやすい。政治的にも、租税特別措置など特定の業種を優遇することがやりやすくなる。また、現在では多国籍の企業活動が活発かつ容易になっているため、法人や個人の所在地を基準とする法人税や所得税では、所在地を操作することで課税を回避することも可能となる(タックスヘイブンを想起されたい)。消費税はこのような操作をしにくい税である。こうした点を踏まえ、日本の財政問題の解決策としては、消費税率を上げることで企業の税務担当者や税理士を減らし、税務署職員も減らして、国全体として徴税コストを抑制することを考えるべきであろう。英国でも所得税の自己申告制を導入することで、租税調査官を思い切って減らした歴史がある。

ただ、一つ留意すべきは、消費税は、法人税=(売上-仕入-賃金)×税率と比べると賃金にも課税しているので、雇用に対し抑制効果を持つことである。もし消費税率を上げることになれば、企業は労働よりも資本集約的な投資を行うことになるであろう。しかし、これも人口減少下で、外国人労働者の受け入れが容易ではないなかでは合理的なことではないか。

(2008年9月5日脱稿)

 

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