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Sun, 14 August 2022

第89回 9月の市場混乱から その3 ‐ 英米政府、FRB、BOEの失政

金融監督の失敗

今、金融市場ではアラン・グリーンスパン前米連邦準備制度(FRB)議長の評判が地に落ちている。後任のベン・バーナンキ議長なども論外という感じだ。英国金融庁(FSA)のカラム・マッカーシー議長は、ノーザン・ロックの破綻について責任を問われる形で9月に交替させられたし、このままでは、イングランド銀行(BOE)のキング総裁の評判が落ちるのも時間の問題だろう。

彼らの経歴に共通しているのは、金融で商売をしたことがないか、あったとしてもその期間がごく短いということだ。グリーンスパン氏はエコノミスト、バーナンキ、キング両氏は学者、唯一マッカーシー氏だけが英大手バークレイズ銀行の東京支店で勤務した経験があるが、元々は役人である。その経験不足が金融危機の一因となったとの感は、拭い切れない。FSA、FRB、米国政府(SEC=証券取引委員会、州監督局)は金融検査や監督権限を有していたし、BOEやFRBといった中央銀行は、預金や債券売買を金融市場と行っていた。行政権限により、または預金や債券売買の取引制限を通じて彼らは経営が悪化した証券会社や銀行の市場からの退場を命じることができたのに、それを行使せず、今日の事態を招いた不作為責任は重い。

例えば、FRBや他の5カ国の中央銀行のドル資金の市場への放出(流動性供給)を考えてみよう。FRBが監督や検査権限、またはオペレーション取引の制限を用いて、経営の悪化した金融機関を金融市場から早めに退場させていれば、金融市場の麻痺やドルの流動性供給は起こらなかった。ポールソン米財務長官やバーナンキ議長、キング総裁の発言を聞いていると、自分たちの不作為責任を棚に上げて流動性を供給したり、銀行救済をしたりする必要性を説いている。その必要性を否定するものではないが、その事態を招いた責任の一旦は自分にあることをまずもって述べ、その責任を取らなければ、到底公的資金について国民の納得は得られまい。

日本の不良債権問題時の英米の態度

思い出すのは、日本の不良債権問題で邦銀が苦しんでいるときのニューヨーク(NY)連銀やFSAの態度だ。NY連銀は、邦銀は不良債権の認識が不十分で資本不足だとして、担保積み増しや資本増強を要請、それができないのであれば取引をやめるとして、実際に取引から外してきた。FSAもつい最近まで、日本の銀行にだけ不利な流動性の規制をかけていた。現在なら、英国の銀行に対して資本増強や厚い流動性を持つように求め、逆に日本の銀行や証券会社は優遇されるべきときだ。さらに言えば、日本の金融庁や日銀は資本増強や担保において、英米の金融機関に対して区別した取り扱いをすべきときである。

しかし、こうした措置が取られたとの話は聞かない。やられっぱなしでいいのか。こういうときは、不良債権額をきっちり認識し、資本を積むのが必要だと我々は欧米人から何回言われたことか。SECは、時価会計を一時棚上げするという。これに対して日本の金融庁は真意を確認中だという。真意は決まっているではないか。損失先送りしかない。

こうした場当たり主義に、日本政府は当時言われたことをそっくりお返しし、厳しく英米政府に対応を求める必要があるのに、この日本の政治の機能不全や行政の実情は情けない。米国の不良債権買取法案の議会通過を歓迎するのは結構だが、資本増強をもっと踏み込んで求めるべきだろう。

日本の悲しさとチャンス

日本はどうして米英の金融機関に対してこうした要求ができないのか。1つの理由は、ドルと円の国際通貨としての重要性の差だと考えられる。これは国力そのものの問題であり、日本人としては悔しく、悲しいことである。ただ日本の金融機関は今、積極的に欧米金融機関に出資を行っている。さて、シティ勤務の日本のサラリーマンたちに、欧米の名うてのインベストメント・バンクや銀行の経営ができるのか。終身雇用を前提とした日本のサラリーマンが経営者として真の実力があるのか。チャンスであると同時に、これからが正念場となろう。

実務や金融を知らない人を金融監督や中央銀行の長にしたことについて、米国民や英国民の怒りが今後出てくる。EUと各国財政政策の緊張関係も問題になる。特に英金融機関の経営問題は表面化しつつあり、これからが本番と予想される。シティと英国経済は一段と大きく揺れることになろう。

(2008年10月4日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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