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Sat, 23 November 2024

第94回 ブロック経済の下での日英(その1: 英国)

実体経済のうねり

金融市場の混乱は小康を得ているが、年末にかけて米国経済が一段と冷え込むほか、日本でも中小企業の倒産が増え、もう一波乱が起こることは確実な情勢にある。何より、米国の消費が冷えてしまったことが現在のグローバルな経済では決定的な意味を持つ。20年間続いた世界経済の牽引車が消滅した結果、米国の貿易と財政の2つの赤字が今後縮小に転じる一方で、景気が一段と悪化することは必至だ。大口の買い手が買い控えている以上、供給側では在庫が積み上がり生産を減らす、原材料は買わない、不良在庫は安売りということになる。そして雇用調整になり、経済循環が一巡する。

来年は世界的に失業が大きな問題になる年となろう。そうなると各国政府は、金融危機で揺れた今年のように危機対応で協調するというモードから、自国企業や国民の利益を守る方針を露骨に打ち出す保護主義的な行動に出ることになる。民主党のオバマ次期政権は、そうした政策を打ち出すと彼のブレーンもテレビで言っていたし、日本の外交当局者もそう見ているようだ。そうなるとブロック経済のリスクも想定しておいた方が良いかもしれない。


自由貿易主義と保護主義の使い分け

欧米人の保護主義は今や洗練度を増した。彼らは戦前のように日本への石油の禁輸といった露骨なやり方をもはや取っていないし、取ることもできない。第一の方法は、自国企業に有利なようにグローバルなスタンダードを決める力を握ることである。金融の各種ルール、会計ルール、関税および貿易に関する一般協定(GATT)の取り決め、排出権分配などを通じて「公正価値の会計」、「自由貿易」、「地球環境保護」など正論を表では述べるが、その実、競争条件の相違を考慮に入れず、欧米企業に有利な条件を制度化しようとする。日本は、これにことごとく忠実に対応してきているが、例えば会計ルールでは金融混乱が欧米で起きると、時価会計の一時中断というご都合主義がまかり通る。日本政府や日銀はもっとその点を突くべきであろう。

第二の方法は、旧植民地など勢力圏の国々の囲い込みである。最近、欧州各国によるアフリカへの、または米国による中南米への攻勢が激しさを増している。中国のように援助外交で資源を買い漁るというような、いわば下品なやり方はしていないが、その実は同じだ。例えばドイツ政府はメルケル首相の下、太陽電池の開発販売を国家プロジェクトとしている。その中心はシーメンス社とその周辺の中小企業群だ。アフリカの貧困救済、地球環境保護をスローガンとして、太陽電池をアフリカに売りこむのに躍起になっている。電気スタンドに太陽電池を埋め込み、「アフリカの子供たちが夜勉強できるようにする、エイズ撲滅にも役立つ」という。もちろん日本製でも良いはずなのだが、何千万という数のスタンドをドイツ企業が受注しているという。そして日本政府の援助資金は、そのスタンドを買うのに使われることになる。

第三の方法は言うまでもなく、米国が軍事力を自分で有し、自由貿易と世界秩序のために日本に資金援助を、さらにはサウジアラビアや日本などに武器の中古品の高額での購入を求めることである。米国のアーミテージ元国務副長官が最近になって訪日したのはそのためだと言われている。日本の経済一流、金融二流、政治三流の帰結とも言える。


ウィンブルドン方式の行方

英国は、メガ金融機関や外資サービス業にビジネスの場を提供することでその手数料を得るウィンブルドン方式でサッチャー政権後、繁栄を続けてきたが、このモデルを変えるのだろうか。ロンドン市場には常に世界の一流の金融マンが集まっている。シティでは12月のボーナス期を前にリストラが相次いでいるが、次のイノベーションの種も既に多くまかれている。ヘッジファンドの後期参入組の中には撤退したものも多いが、上がりそうなものを大量に買い、下がりそうなものを大量に売るというビジネス・モデルは間違ってはいない。相場の下げ局面でも儲けているファンドも多い。単に優勝劣敗ということで、経営者たちも「これで当たり前」という風情である。このためウィンブルドン方式に変更はあるまい。

むしろ、英国政府の保護主義と規制強化を予想して儲けようというのがシティの友人たちだ。アフリカへの投資額のみならず、旧宗主国としての英国の政治力は大きい。英語の世界性も強まるばかりだ。クビでも悲観的な人が少ないのはそのためだろう。

(2008年11月24日脱稿)

 

Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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