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Fri, 22 November 2024

第106回 英米銀行の収益かさ上げ問題―負債時価評価の読み方

バークレイズの決算を例に

金融界では、バークレイズPLCや野村證券をはじめとする英米や日本の金融機関の昨年や今年第1四半期の決算を巡りちょっとした議論がある。こうした金融機関が、自らの借金=負債を額面(簿価)ではなく、時価で評価することで評価益(英語では、「own credit adjustment」という)を出したことについてだ。バークレイズを例に取ると、今年第1四半期の税引前利益は13.7億ポンド(約2000億円)であったが、そのうちの実に2割に当たる2.8億ポンドは負債評価益によるものであった。経営が苦しいときに、借金を市場価値で測ることでなぜ利益を出せるようになるのか。

メカニズムを説明すると、企業会計の世界では、企業の現在の価値をできるだけリアルタイムで示すことが良いという理由から、資産を取得時の簿価ではなく決算期の市場価格=時価で評価して開示するという決まりがある。例えば取得した金融商品=資産も買った価格ではなく、市場で流通する価格で評価して、買った価格との差異をプラスなら評価益、マイナスなら評価損として収益に計上するということである。

これを資産ではなく、負債側で適用するとどうなるか。金融市場では負債(借金、債券や借入など、貸出側では債権になる)も取引されており、時価がつく。経営が悪化した企業では、自分が出した債券=借金は、経営が悪化している分、市場での価格はその額面より安くなっている。つまり、その企業(借入側)では、資産が額面より高くなって利益が出るのと逆で、負債が額面より安くなったので利益が出ることになる。ただし、借金の返済期に返すべき金額が変わるわけではないので、返済期が近づくにつれ、借金の時価は額面に近づいていくことになる。


資産側で経営悪化を評価しない落とし穴

こうした取り扱いは、シティに本部がある国際会計基準機構の会計基準(IAS)で「してもよい」ということになっているので、違反ではない。しかし、この仕組みには落とし穴がある。借金の時価が安くなるのは、その金融機関の経営が悪化しているから、言い換えれば資産が劣化しているからである。そうであれば、借金の時価評価で得た利益の同額が、資産側の時価評価で損失計上されるのが筋である。

しかしながら英米金融当局や金融機関はIASなど会計基準当局に圧力を掛けて、サブプライム・ローン問題で価格が暴落して、誰も市場で買わない資産の時価評価を、「市場がない」ことを理由に見送らせている。資産サイドで価格暴落に目をつむり、負債=借金サイドで利益を出す、これを粉飾といわずして何というか。ご都合主義も極まったと言える。

ここで失われるのは金融機関への信頼だけではない。会計基準や会計制度自体も市場や投資家からの信認を失うことになる。こうした評価益を計上しなければ、英国や米国政府はさらに多くの公的資金を用意せざるをえなくなるのかもしれない。しかし、好景気に時価評価をグローバル・スタンダードとして喧伝し、不景気になると会計操作で収益をかさ上げするとすれば、英国や米国のいうスタンダードは自分中心主義に他ならない、と日本ははっきりと言うべきだ。

議論の対象となっている負債評価益
バークレイズPLCの09年第1四半期決算報告から抜粋

Own Credit
The Carrying amount of issued notes that are designated under the IAS 39 fair value option is adjusted to reflect the effect of changes in own credit spreads. The resulting gain or loss is recognized in the income statement.
At 31st March 2009, the own credit adjustment arose from the fair valuation of £54.2bn of Barclays Capital structured notes (31st December 2008: £54.5bn). The widening of Barclays credit spreads in the period affected the fair value of these notes and as a result revaluation gains of £279m were recognised in trading income (2008: £703m).

(2009年5月9日脱稿)

 

Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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