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Sun, 14 August 2022

第115回 シティのこれから

リーマン破綻から1年

ノーザン・ロックの破綻から2年が経った。ロンドンのシティは、再び息を吹き返したかのように見える。

去年から今年にかけて、4大銀行やインベストメント会社では解雇が相次いだ。筆者の友人の中にも会社を替わることを余儀なくされた者が何人もいた。ただ、それでも金融関係の勤めを続けている人は多い。ヘッジファンドもいくつかは消えたが、大所は残っている。昨今、投資対象としてもてはやされているのが、新興国経済への投資とエネルギー関係の投資だ。金融という、お金が余っている主体から不足している主体への資金融通の仕事の価値がなくなったわけではないから、現状は当然ともいえるのだが、いつかきた道という感じで、新味があるとは言えない。ヘッジファンドは、これまでも新興国経済やエネルギーへの投資、さらにはこれらのリスクとオプションなどのデリバティブを組み合わせた投資で稼いできたので、同じことを形を変えて行っているようにしか思えない。

中央銀行や規制当局も、どうも本質に迫っていないという気がする。①金融機関役員の報酬規制、②自己資本比率の質の強化、③金融監督当局の権限や中央銀行との連携強化、④ヘッジファンドの登録制、⑤中央銀行のマクロプルーデンス(全体の秩序維持)機能の強化などが題目に上がっている。①から④までは、これまでの規制の強化に過ぎない。一つの規制が入れば、その規制を迂回しようという人々がまずは自由度の高いロンドン市場へ、ロンドン市場でも規制が入ればさらに規制の少ないアイスランドやアイルランドへ、そしてもっと自由なマン島などタックス・ヘイブンでITを利用して自由な取引をするだけであり、また同じ歴史を繰り返すのか、という感じがする。

英国政府とシティの地位の維持

英国政府は、厳しい規制を導入することについていろいろと考えることになろう。厳しい規制を敷けば、ロンドンから金融というドル箱の産業を他の国や地域に流出させかねない。ただ金融への信頼は世界中で地に落ちているので、何もしないわけにはいくまい。従来のような原理原則による監督だけでは足りず、細かい規則によって重箱の隅をつつくような監視監督も建前としては導入し、実質の運用は適当にする、また税金も多少優遇するというのが、結構小ずるい大人の英国人の考えそうなことだと思う。自由の看板維持、反省の表明による大陸への面従、そして税制での腹背というわけである。

しかし、それではこれまでイノベーションの先端にいたロンドンの金融が泣く。製造業では、iPodや電気自動車など従来にない製品作り、とりわけ素材レベルの研究によって従来の金属や化学物質と異なる素材を活用した商品作りなどのイノベーションが行われている。そしてそうした製品は、不況でも関係なく売れているのだ。ここは金融も原点に帰って、金融の機能とは何か、何を求められているのかを考えることが早道だと思う。

金融の一丁目一番地

金融とは、今日使わないお金を、今日使うお金がない人に融通してあげることである。お金は返してもらう必要があるため、そこには必ず信用という問題が生じる。信用できない相手にお金を貸すときは、貸し倒れないようにうんと担保を取るとか、貸し倒れても自分がつぶれない程度の少額を貸すとか、高い手数料=金利を取ることでリスクに応じたリターンを得るといったリスクの管理方法がある。そしてこうしたリスクを計数化する試みが営々となされてきた。しかし人々は、その計数は「信用がある」との判断を下すための必要条件ではあるが、そもそも十分条件ではないという基本すら忘れてしまっている。基本から遠ざかると、枝葉末節にとらわれ大きく間違うという例だ。

一番確実な方法は、「信用ある人」にだけ貸すということである。では「信用ある人」とはどんな人か。結局は、「信用できる」と当方で思うかどうかだ。そして「信用できる」と思えるようになるためには、とことん相手と付き合うしかない。株式もそうだが、投資というのは相手と付き合うことが少ないので、狭義の金融とは言えない。狭義の金融は、貸し手と借り手の関係が続く債権・債務関係のことを言う。金利の支払日には会いに行く。これが信用を扱う者にとっての始まりではないか。携帯電話やコンピューターでだけ相手とコミュニケーションするヘッジファンドの連中に何十億と投資する日本の機関投資家は、信用の本質を解っていない。


(2009年9月16日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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