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Mon, 15 August 2022

第119回 外国資本の企業で働くということ

英国における外国資本

英国では、英国人が外国資本の企業で働くことは当たり前で、少数派ですらない。銀行業界だけでも、米国の証券会社やフランス、ドイツの会社、さらには日本の会社がしのぎを削っていて、多くの英国人が外国資本の会社で働いている。また英国に住む日本人の中には英国企業で働く人も多いが、彼らにとって、外国資本の企業で働くことに別段、抵抗はあるまい。

しかしながら、日本で働く日本人にとっては、外国資本の企業で働くことは例外に属する。就職戦線でも、合コンでも、外国資本の企業で働いている場合には、「外資系の○○」という枕詞が付される。ちなみに、この「外資系の」という言葉が含むニュアンスは、英語では伝わらない。英語圏では、そういうことを取り立てて問題とする感覚がないからであろう。

実際のところ、資本がどこの国かということを問題にすることにはあまり実質的な意味がないようだ。例えば、資本家がアラブの王様であったり、ロシアの富豪であったりする場合がある。彼らは、国籍はともかくとして、実際にはロンドンに住んでいたりする。また彼らが経営する企業は、CEOなどの経営陣の人材選びに際して、世界中から優秀者を集めている。一体、企業の国籍をうんぬんすることにどういう意味があるのだろうか。英国人はそうした「資本の国籍問わず」の感覚を持っていると感じることが多い。

インフラ企業とナショナリズム

ただ英国でも、外国資本によるBBA買収は問題になった。空港運営会社をスペインの会社が買収することに対して、安全保障上の問題が絡むとの議論が新聞に出た。米国の港湾運営会社を中国の企業が買収しようとして、米国政府が待ったをかけたことも記憶に新しい。一方で、英国航空とイベリア航空の経営統合にはそう異論もない。

雇用が生まれることを見越しての外国企業の誘致は、どの国の政府も行っている。サッチャー政権時代に民営化が徹底して行われた英国では、電力会社にまで外国資本が入っている。90年代からの電力自由化によって、業界1、2位の座を得た電力会社は、ドイツの電力会社に買収された。空港がだめで、電力はOKという理屈はそう明快ではない。結局、徴税対象という観点を除いては、国籍概念とは企業にとって非常に馴染みにくいものなのであろう。

これに対して、日本では、英国のファンドがJパワー(旧電源開発)を買収しようとして大問題になり、日本政府がこの動きを阻止した。ルノーによる日産自動車買収は問題にならなかったが、デルタとアメリカン航空によるJAL出資は政治的な議論になる可能性がある。日本人の中には、それがたとえ現在はマイナス評価であったとしても、日本人が苦労して築き上げた会社財産を外国資本に売り渡すのは何か損、といったような感覚が残っている。まして電力会社や航空会社といったインフラ企業なら尚更である。

一方で現在、中国企業が日本の中小企業の技術力に眼をつけ、その買収を進めようとする動きは既に相当数ある。時間の問題として、日本に住む日本人は、自分の勤める企業が中国系になりうることを覚悟する必要がある。

中国系企業で働く覚悟

外資系企業に対して、日英の間に意識の差が生まれるのはなぜか。ナショナリズムは英国でも決して弱いとは言えない。やはり、日本人は外国人、外国の企業文化に慣れていないということが、真因であろう。英語という国際語を第一言語とするか否かの違いもある。島国でかつ鎖国が長かったという歴史も関係しているのかもしれない。

問題は、外国企業に買収されること自体の善悪ではない。例えば、中国企業が日本の中小企業を買収した際に、その企業で働き続けるためにはどうあるべきか、ということであろう。仕事・会議のスタイル、文章の表現など、個人が学習すべきことは山のようにある。しかし、より重要なのは、多国籍企業や外国企業におけるトラブルに対する紛争解決の制度、もしくは法を適用する上での明確性といった、日本人従業員の権利を守るための制度及び中国国内での制度整備を要求することであろう。

いずれも日本政府の仕事である。民主党政権のマニフェストには目先の問題が非常に多く、中期展望に弱い。しかし、世界経済のグローバリゼーションはどんどん進んでいる。生煮えな政策論ばかりでは、国民に余計な心配を与える。

(2009年11月19日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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