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Wed, 11 December 2019

第128回 北朝鮮、体制崩壊の足音

100対1のデノミ政策

北朝鮮が、昨年11月末に、旧ウォン対新ウォンを100対1で交換するデノミ政策を実施したと報道されている。このニュースには、重要な意味があると思う。最後に新通貨発行を実施した1992年時の交換比率は、1対1であった。100対1という極端な比率は、1959年の朝鮮戦争インフレへの対処時以来である。2002年の市場原理導入により拡大した、特権階級や商人と一般労働者との貧富の格差の解消を目的としたもので、加えて10万ウォン(約半年分の生活費)以上の財産の新ウォンへの引き換えが禁止された。同時に外貨取引は禁止、自由市場が閉鎖。その結果、急激なインフレになり、庶民の座り込みなど抗議行動が続いているという。物価の価格調整機能が破壊され、経済が混乱しているようだ。

デノミは通貨単位の置き換えなので、それ自体で物価変動などが起きるものではない。混乱の真の原因は、第一にモノが不足していること、第二に北朝鮮通貨を北朝鮮の人々すら信用していないことにある。まず、自由市場を閉鎖し、金持ちから10万ウォン以上を事実上没収するとなると、代わって配給経済の原則を守ることが基本になるが、共産圏の崩壊以降続く援助不足及び農業生産の不調からモノ不足が解消できていないため、配給制が機能していない。このため結局、闇市場が残る。そこでは、配給制も守れない政府のウォンは到底信用されず、ドルや人民元が使われている。外貨市場も禁止となると、闇外貨市場でドルや人民元が急騰する。こうなるとウォン安となり、ウォン・ベースでのモノの値段が急騰する。これがインフレである。

一旦インフレが起こると、インフレ期待が生じ、売り惜しみが生じ、インフレがインフレを呼び、誰も物価を信じられなくなる。ケインズが言ったとおり、国家を堕落させるには、通貨を堕落させるのが早道である。

北朝鮮の崩壊の足音

極端なデノミだけではない。北朝鮮政府は、偽ドルを印刷することで、外貨不足を補い、また米国通貨を堕落させようとしたと報道されている。社会主義国においては、通貨の常識がいまだ整理できていないのであろう。この点はマルクスの責任と言うべきか。

気の毒なのは、北朝鮮の人々である。しかもインフレで困るのは、所得の低い底辺の人々だ。外貨を闇レートで交換できる特権階級や商人は困らない。つまり、金持ちからの財産没収、格差是正という政府の意図とは、全く逆の事態になっていると想像する。さらにウォン安は、中国からの購買力を落とし、物資不足に拍車をかける。一旦、平等社会の構築を標榜する共産主義的な経済システムを修正し、一部に市場原理を導入して自分の食料は自分で稼げというシステムに変更した挙句にモノ不足に陥った後でのデノミは、今後、北朝鮮経済を一段と疲弊させることは確実である。

いずれにせよ、北朝鮮の体制崩壊は時間の問題になったのではないか。今後、同国の情勢には注意を要する。特に食えなくなる人々が増えてくると、役所や商店を襲う暴動が発生し、難民の南への流出が始まりかねない。

そうなる前に考えることは、対外的に冒険的な行動によって、国民の不満をそらそうとすることである。北朝鮮が今後、対米、対日で外交や軍事的なパフォーマンスを一段と強くする可能性がある。

日米中韓が考えておくべきこと

日米中韓が考えておくべきことは、もはや、いかにスムーズに現体制を崩壊させるか、崩壊後の南北統一の経済パフォーマンスをどうするか、ということであろう。軍事外交の出番であるし、米国の中央情報局(CIA)などが活躍する局面である。普天間基地の問題も、基地をどうするかを抽象的に考えても生産的ではない。台湾有事、北朝鮮有事、さらに米中関係という文脈で考える必要がある。

南北統一となると、内需が盛り上がらない構造不況状況の中にある日本経済にとっては、外需拡大のチャンスかもしれない。政治の構想力が試されるときであろうと考えるのは筆者だけであろうか。当然、米国や中国はそう考えているだろう。

ある自衛隊関係者は、鳩山政権になってから米軍関係の情報が入らなくなったと漏らしている。政権のパフォーマンスがあまりに悪いので、参議院選挙では苦戦するかもしれない。そうなると結局、改革も中途半端なものになるだろう。政治的な不能は、日本経済が抱える構造問題の解決への道を、一段と遠いものにする可能性がある。

(2010年3月31日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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