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Thu, 28 March 2024

第27回 ラテン・アメリカの分れ道

問題の所在

今、ラテン・アメリカは、国家とグローバライゼーションの関係を考える際の好材料を提供している。ここ20年ほどの改革と中国からの需要台頭などグローバライゼーションによりもたらされた経済好調の果実を、低所得層の不満に伴う社会的、政治的不安定の解消に向けて、どのように使うのかがポイントである。

社会主義者ケン・リビングストンが先月大歓迎したベネズエラのチャベ大統領に代表されるポピュリストが無駄遣いするのか、それとも社会インフラ、教育などの整備に使って社会的な安定を回復しつつ、一段の成長を目指すのかが問題である。

ラテン・アメリカ経済

ここに至る過去20年ほどの経済史を振り返ってみる。
ラテン・アメリカでは、80年代後半に累積債務問題を主因に通貨危機が発生し、外国資本が逃げ出した。IMFが介入し、シカゴ大学始め米国で学んだ自由主義的な経済学徒が主導して、規制緩和、民営化が進められ財政支出が大幅にカットされた。その過程では、米国以上に国民のインセンテイブを活用した年金を始めとする制度改革が行なわれ、自由主義のシカゴ学派の実験場とまで言われた。いずれにせよ、その過程でインフレが抑制され、経済がゆるやかに再建された。そこへ、中国の工業国としての台頭とそれに伴う資源需要の拡大が2000年前後から始まった。

これによってメキシコの軽工業製品、ブラジルの鉄鉱石、ベネズエラやボリビアの石油、チリの銅鉱石などへの需要が急増し、一挙に経済再建し、累積債務問題はアルゼンチンを除いて解決しつつある。グラフに見えるように経済全体が底上げされ、貧富の差も拡大したとは言えない。しかしながら、大多数の国民の所得レベルは以前よりも上がったとは言え、先進国と比べて相当低く、国民の間には、成長による余得の分配について大きな不満がある。

ベネズエラのチャベ、ボリビアのモラレス大統領は、過激なポピュリストとして知られ、外国企業が持っている資源関係の利権を国有化し、その配当を福祉に使いつつも、自らの息のかかった軍隊や会社により分配をしている。最大の問題は、第三者のチェックがかからなくなったことであり、一種の独裁状態になったことである。このままでは経済に対する大きな打撃となることが予想される。一方では、ブラジル、チリ、ウルグアイなどでは、穏健な社会民主主義の立場から、社会インフラのほか、特に教育に大きな財政支援を行なっている。長い目で見て、いずれが経済成長に寄与するかは明らかだろう。

カシキスモ

ラテンアメリカには、カシケというボス(合理的なリーダーというより、地縁、血縁を基盤に私兵などを有した地方軍閥的な存在)による収奪政治体制(カシキスモという)が伝統的にある。チャベ氏などの台頭は、近代国家以前のカシキスモという民族的な通奏低音が表に出てきたものと思われる。

グローバライゼーションに洗われた国家において深化した不平等感の帰結は、社会民主主義の深化ではなく、喝采政治とカシキスモの復活による資源や富の無駄遣いとなる可能性がある。民主主義や消費者主権の未成熟を指摘できると思うが、それ以前に人間や社会がグローバライゼーションについていけていないという感じを強く持つ。

先日の「ファイナンシャル・タイムズ」紙にグローバライゼーションが雇用を脅かしていると考えるフランス国民が増加しているとの記事が見られた。まして国民一人一人の生活水準が欧米に及ばないラテン・アメリカにおいて、恵まれない層は不満のはけ口を探さざるを得ない。近代国家がグローバライゼーションと民族の古層によって解体に向かうのか。世界的に問われている国家の存在意義が、ラテン・アメリカで先鋭的に問題になっている。そうはいってもラテンの熱い血は、ランバダ、サンバ、サッカーに燃えるように思うし、そうでないとあの濃いラテン文学も生まれまい。折しもW杯が来る。ロナウジーニョにシカゴ学派は一蹴されるのかもしれない。

(5月31日脱稿)

 
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