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Fri, 13 December 2019

第163回 米国のデフォルトはあるのか

米国のデフォルトの可能性

この記事が出る頃には帰趨(きすう)が判明して関連報道が多数出ていると思うので、やや旧聞に属する内容となるかもしれないが、日本の財政問題を考えるヒントとして、米国のデフォルト(債務不履行)の可能性が生じた意味について考えてみたい。

米国のデフォルトとは、同国の国債の償還期限(借金の支払い期限)に、その借金を支払えなくなった事態を言う。8月2日に、その事態に陥る可能性が出てきている。米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、7月13日、米国の国債格付けを最上級の「Aaa」から引き下げ方向で見直すと発表した。米連邦政府の総債務残高における法定上限の引き上げに向けた米議会の与野党協議が難航しており、米国債が短期的なデフォルトに陥る危険が高まっていることが理由だ。米政府の債務残高は、5月半ばに、法律で定めた上限である14兆2940億ドル(約1131兆円)に達した。このままでは米国債の借り換えなどができなくなるデフォルトに陥るため、財務省は現在、年金基金などの資金を米国債の償還資金に充てている。

この資金が、8月2日には底を付く。オバマ大統領は、各種予算の最終的な支出額を来年の大統領選挙後に決めるという一括妥結交渉を案として提示し、一部高齢者向け公的医療制度や低所得者向け公的医療保険制度の予算削減を提案した。共和党、特に大きな政府に反対する茶会党系議員は一層の歳出削減を求めている。小さな政府の実現に向けての要求は、タリバンが勢いを盛り返しているアフガニスタンからの米軍の撤退という事態を招いた。米国では、リーマン・ショック後に弱者のために財政支出を増やしたオバマ政権のあり方そのものへの問い掛けが生まれており、これが小さな政府か大きな政府かという問題にまで遡行して論争となっているのだ。

デフォルトが取り沙汰されることの意味

米政府は「借金は返すのが当たり前」と思っているからこそ、債務上限を無制限に上げて、借り換えを繰り返すことが問題視されている。一方、日本では、国債は原則、借り換えることができて、さらに新規発行がなされることが当然のように思われている節がある。

実際のところ、米国人は財政規律に非常に敏感であると感じる。「大きな政府」は、ベトナム戦争などの記憶につながっている。ここには、2つの問題がある。第一には、米国の経済状態から見て歳出削減は適当かどうかという点、第二に財政規律はどのようにして実現できるかという点である。

第一の問題については、現在の経済状態では歳出削減は難しいし、適当でないと思う。いまだバブルの傷が大きい。その処理も十分でない。長期失業率が高い。こうした状態での歳出削減は、景気に非常に悪い影響を及ぼすであろう。このため、結果としては、大幅な歳出削減を訴える共和党も折れると考えられる。そして、債務上限は引き上げられるであろう。しかし、ぎりぎりまで、債務上限を引き上げていいのかどうかについての議論は行われる。そして、そうした議論は、後から価値が出てくるであろう。やはり、安易に得られる安定は長続きしない。苦労が必要なのだ。

第二の「財政規律はどのようにして実現できるか」という点については、米国はギリシャなどと異なり、米国債を買う人が多くいるので、資金調達の問題はそれほど深刻ではない。しかし、そのような状況が、いつまでも続く保証はない。要するに財政再建ができるためには、それに見合う歳出削減か税収が必要になるが、歳出の削減幅に限界があるとすると、税収を高めるほかない。税収を高めるためには、経済活動を活発にする必要がある。

日本の財政へのヒント

経済活動を活発にするという点では、米国に一日の長があると思う。経済活動の原則自由という理念が広まっていて、お上は必ずしも信頼されているわけではなく、出る杭を打たない。

日本はこの逆である。確かに、日本には日本のやり方があると思う。お上がある程度は公共事業や研究開発でリードしても良いのかも知れない。けれどもそれ以前に、財政の規律がなければ市場は国家を信頼しないとの認識が希薄なのは、やはり問題である。債務上限を引き上げられずに悩む米国の大統領と、本年度予算の特例公債法案がいまだに通らないという危機にある日本の首相が持つ危機感の間には、似ているようで大きな違いがあるのだ。

(2011年7月17日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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