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Tue, 10 December 2019

第165回 ロンドンでの暴動の根っこにあるものとは

暴動の根っこにある問題

6日夜からイングランド各地で始まった暴動について、事態はまだ続いているので予断は許さないが、強く思うことがあるのでぜひ読んでいただきたい。この事態は、人類共通の問題と思うからだ。キーワードは、「平和の配当の終わり」だ。

きっかけは警察による黒人男性の射殺事件だが、いずれの暴動も貧しい地区で起こっていることから、もともとあった貧富の差とキャメロン政権の緊縮政策に対して溜まっていた不満が、爆発したとの見方が多い。しかし、「サン」紙と世論調査会社YouGovが8、9日に2534人を対象に実施した世論調査によると、多くの国民は国内の不良グループ文化が背景にあると見ている。キャメロン首相の政策転換が暴動の直接的な原因だと考えている人は回答者の8%に過ぎず、失業問題が主な原因との回答は5%だった。また、人種間の対立が背景にあるとの回答も5%程度にとどまっている。キャメロン首相は夏季休会中の11日に招集された議会の冒頭で声明を発表し、今回の暴動について「何の政治性もなく、犯罪だ」と強く非難している。

確かに今回の暴動に便乗した若者たちが起こした行動は、犯罪であろう。しかし、便乗するに至った理由を掘り下げる必要がある。新聞では、この暴動に中産階級の令嬢、準教員、11歳の小学生などが加わっていたことを報じている。表面が豊かでも心を病む人は少なくない。貧困は確かに暴動の一因であろうが、物質的な豊かさが確保されれば解決されるというわけでもない。

先進国のもがき

90年代以前から、欧米の先進国は、日本の経済的な台頭などによって経済成長率の低迷を余儀なくされていた。それがベルリンの壁の崩壊で、市場のフロンティアが広がり、安い労働力が世界に解放されたことで、景気が回復してきた。しかし、今や新興国は低付加価値品の生産基地というばかりではなく、高付加価値品の生産も拡大させており、先進国の雇用が奪われている。そしてこうした新興国は、貿易黒字を背景に、経済のみならず、政治的な発言力を持ち始めている。一方の先進国は、製造業の産業競争力で新興国に押され、経済成長率はここ20年来再び低迷している。「平和の配当」が終わったのである。このため先進国の貧困層、特に移民、中でも若年失業者は豊かになる希望が持てず、またその層が次の世代にも引き継がれ、再生産される。

先進国の財政赤字は景気対策、貧困対策で膨らむ一方だ。このためキャメロン政権を始めとする世界各国の先進国における政治に、財政規律優先路線が台頭した。かくして、生活の糧は財政赤字削減でますます削られることになる。貧困層は、「衣食足りて礼節を知る」の逆を行かざるを得ない状況に追い込まれつつあるのではないか。手を打たなければならないことは、ベルリンの壁が崩壊したときに予測できたはずだ。この問題は先進国に共通したもので、英国だけの問題ではない。自己責任の原則は効用もあるが、絶対的な貧困に対しては限界を露呈する。欧米は経済的な自由度が高く、財政規律に敏感だからこそ、こうした問題が先鋭的に起こっているに過ぎない。財政規律が緩んでいる日本では、問題が先送りされている。

豊かさに潜むリスク

しかし、先進国(いずれは新興国でも同じ問題に直面するはずだが)において、さらに厄介な問題は、「衣食足りても、礼節を知るとは限らない」ということだ。豊かになったゆえの頑張りのきかなさ、人生命題の欠如、考える=工夫する能力の退化、対人能力の劇的な低下など、英国社会のみならず、日本社会でも同様の病巣がある。心に潜む闇はより分かりにくく、深くなっている。


Picture by: Lewis Whyld/PA Wire/Press Association Images
ロンドン北部トッテナムで警官と対峙する暴徒

同じような問題は19世紀末の欧米先進国でもあった。ただこれまでの状況と異なっているのは、現代ではアフリカを除く全世界が巻き込まれつつあるということだ。暴動の根っこについて、政治は洞察力を要するのではないか。だから単純に大量の警察投入でその場はしのいでも、問題の根っこは残ると考える。

(2011年8月13日脱稿)

 
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Mr. City:金融界で活躍する経済スペシャリスト。各国ビジネスマンとの交流を通して、世界の今を読み解く。
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