Bloomsbury Solutions
Sun, 22 December 2024

今すぐ英国を撮りに行こう
英国での思い出をより美しく残すための、ちょっとしたコツをご紹介します。

第50回 大切な思い出を形にする
〜最終回~

新しいカメラを手に入れた学生の頃、うれしくて、親戚や家族を撮影しました。祖父はその頃、既に病床に伏していましたが、「写真を撮らせて」と祖母に電話をしたところ、2人は快く了解してくれ、後日、祖父宅に赴くと、祖父が背広を着て私を待っていてくれました。恐らく彼にとって、「写真を撮影する」というのは特別なことだったのでしょう。撮影時には、祖母とともに笑顔で気丈に振る舞ってくれましたが、その後しばらくして他界しました。

葬儀を執り行うに当たり、親戚一同、遺影には彼が元気だった頃の写真を使うということで一致しました。しかし祖母は、私が撮影した祖父の写真が一番好きだからと、「病弱に見える」という周囲の反対を押し切ってもう一枚遺影を注文し、結局、遺影は2枚ということになったのです。祖母が言うには、気が強く、いつも忙しく動き回っていた祖父が、病を患ってからは穏やかになり、その頃彼が見せた温和な表情が、彼女にとっては大切な思い出なのだそうです。その話を聞いたとき、写真が持つ強さというものを感じました。そしてその写真は今でも、祖母の部屋に飾ってあります。

最近は、デジタル・カメラがほぼ主流になり、このコラムも「デジタル」を基本にしてお話ししたものが多くなりました。デジタルの場合、撮影した画像はコンピューターがあればいつでも簡単にアクセスできます。しかしその半面、画像をプリントする機会が減ってきているのが現状でしょう。紙にプリントすることで、イメージは具現化され、大切な人や風景にいつでも触れることができるようになります。何気ないスナップ写真でも、何年か後にはきらきらした写真に見えるかもしれません。消去されやすくなったイメージ・データですが、ぜひプリントして、手元に残してみてください。


4月、サフォークの海岸にて。
陽気に誘われ、フィッシュ & チップスを持って海岸に集まる人々


今号まで連載させていただきました「今すぐ英国を撮りに行こう」は、
50回目の今回で終了になります。
これまでお付き合いいただき、どうもありがとうございました。

 

 

前川 紀子: 滋賀県出身、1998年よりフリーランスに。以後フード専門カメラマンとして食の専門誌やレシピ本を中心に仕事をする。2007年に渡英、08年よりロンドン在住。
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