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Tue, 24 December 2024
國方コックラムみどりさんデザイナー・ブックバインダーズ
正会員 製本家
國方コックラムみどりさん

[ 後編 ] 希少本や時代を経た本を今に蘇らせる美術工芸製本の専門家たち。製本という特異な世界を支えるブック・コレクターたちからの依頼を受けて行う制作や、限定本のデザイン。そうしてつくり上げられた作品は、今の時代に何を訴えかけるのか。日本人製本家、國方さんが生み出した本の数々の声に、耳を澄ませてみる。全2回の後編。
プロフィール
くにかた・こっくらむ・みどり - 東京都生まれ。女子美術大学芸術学部芸術学科卒業。同大学勤務のかたわら、「製本工房リーブル」にて製本を始める。ロンドン郊外サリーのギルドフォード・カレッジ・オブ・テクノロジーで「美術工芸製本と修復」コースを履修。帰国後は同大学に復職するも、1996年に再び渡英。ロンドンに製本スタジオ 「JADE BOOKBINDING STUDIO」を開設する。主に英国、米国のブック・コレクター依頼による美術工芸製本の制作及び英国内、ヨーロッパ、米国、日本にて製本のワークショップを行う。デザイナー・ブックバインダーズ正会員。製本家協会(The Society of Bookbinders)会員。 東京製本倶楽部会員。
http://jadebookbindingstudio-jadestudio.blogspot.co.uk

 

コレクターが支える製本の世界

一口に「製本」と言ってもその形態は幅広い。英国の製本協会「デザイナー・ブックバインダーズ」の正会員として活動する製本家、國方さんの仕事は、同協会を通して知り合ったブック・コレクターたちから個別に請け負う装丁や修復が多数を占める。「コレクターが所有している本の中から私のデザインに向きそうな本を選んで依頼してくださったり、私がコレクターのお宅に伺って自分で好きな本を選んで製本したり。製本の工程はすべて手作りですし、本自体が高価な場合が多いので、ある程度の金額がかかってしまいます。必然的にコレクターは富豪が多いのですが、中には、働かなくても生活に支障はないものの、年に2回程度、大好きなロシア文学関連の本の装丁を依頼するためにお金を貯め、本が完成すると友人らをレストランに招いて披露パーティーをするといった方もいらっしゃいました」。こうした個人クライアントの仕事のほか、出版社から限定出版の本の表紙デザインを受けることもある。日本の人気作家、小川洋子さんの「寡黙な死骸、みだらな弔い」の英語版「Revenge」の限定本100冊を手掛けたときのこと。「着物の反物を使ってほしいという依頼があり、正絹の反物3種類を使って仕上げました。面白い作業でしたし、評判も良かったので安心しました」。

和の素材を使う装丁作業に加え、和装本のワークショップも行っている。「和物はやはり日本人が教えた方が良いケースがあるんです。文字が読めないから上下逆さにしたり、表紙を左開きにしてしまったりすることがあるので。あと小川洋子さんの本の装丁では、始め長襦袢を使ってほしいと言われていたんですよ。日本人ならば『それはおかしいんじゃないか』って思いますよね。ワークショップでは、そうした間違いがないように教えています」。

V & Aで行った和装本のデモンストレーション
2012年にV & Aで行った和装本のデモンストレーション

製本という名の芸術

國方さんが手掛けてきた作品をいくつか見せてもらった。雪、月、花にちなんだ文章をそれぞれ異なる活字で印刷した「雪月花」といった禅の世界にも通じるような透徹した美意識が貫かれた作品から、藍色の濃淡が描かれた一枚の絵を切り刻んでずらし、透き通った羊皮紙でカバーして「水の中を覗き込んでいるかのような不明瞭さ」を出した現代英作家H・E・ベイツ著「ダウン・ザ・リバー」の装丁まで、本の内容もデザインも実に多様だ。読書を含め、異なる文化で生まれ育った國方さんとしては、製本の過程で日英の違いを実感することはあるのだろうか。「空間の取り方や色使いに違いを感じることはあります。個人的にはすっきりとしたデザインが好きなのですが、英国だと空間恐怖症ではないけれど(笑)、空間を埋め尽くす傾向がありますね。色も重厚な色が好まれるように感じます。ヨーロッパの方は、すっきりとしたデザインだと未完成だと思われるのでは」。周りからは日本的なデザインだと言われることもあるが、自分では何が日本らしい要素なのかは分からない。英国の製本家の中には、迫力やインパクトを重視する向きもあるが、國方さんが目指すのは一点。「本の内容に合った美しい本を作りたい」。

自身が活版印刷で印刷し、製本した「雪月花」
國方さん自身が活版印刷で印刷し、製本した「雪月花」

2006年には、日本の美術展でアルバイトをしていたときにかかわった展覧会企画会社に協力する形で、日本の3美術館を巡回した「イギリスの美しい本」展に携わった。先日までロンドンで展示会を行っていた「第2回デザイナー・ブックバインダーズ国際製本コンペティション」は来年後半、日本の各都市を回る予定だ。本という媒体を視覚芸術に昇華させる美術工芸製本という世界。本を愛する者とつくる者が「美」でつながる小宇宙は、密やかにでも脈々と、時代や国を超えて存在し続ける。

 

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