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半裸の英国紳士たち
いまだにタキシードにシルクハットをかぶっている人が街中を歩いているとはさすがに想像していませんでした。でも、英国に来る前の私は、英国人男性といえば、スーツにネクタイ姿というイメージがあったことは否定できません。なので、街のあちこちで半裸の男性を見かけたときは目のやり場に困りました。街といっても、正確には半裸男性の出没率が高いのは公園や広場。気温20度を超えた日には必ずです。
英国に住みだしてまだ日の浅かったある夏の日の出来事。語学学校で友達になった台湾人のアリと一緒に、グリニッジ天文台で知られるグリニッジ・パークに出かけました。
その日はたしか気温が25度ほどもあり「20度超えたら夏日」と言われる英国ではかなりの暑さ。私たちは、駅前にあったマークス& スペンサーでサンドイッチと水、クリスプスを買って公園に向かって歩き出しました。これだけあれば英国流ピクニックを楽しむには十分です。
駅から5分ほどで丘の上に天文台を望む広大な公園に着き、ピクニックをしようと芝生に座ったとき。目の前に延々と広がる緑の絨毯の上にあふれていたのが、上半身裸の男性たちでした。サッカーをするグループや、車座になって缶ビールを飲んでいる人たちも、みんなそろって服を脱いでいます。裸でない人を探す方が難しいくらいの半裸率です。さらに驚いたのが、サマードレスの上の部分だけ脱いで、ビキニのトップで寝そべっている女性がいること。それも1人でなく、何人も!「この人たちは、公園に来てからビキニに着替えたのか、それとも今朝、家を出るときから洋服の下にわざわざビキニを着て来たのか?」、頭の中を「?」が駆け巡ります。よく見ると、ビキニではなくブラジャーだけになっている人までいます。
周囲の英国人にこの疑問をぶつけてみても「暑いし、日光浴をしたいからじゃない?」とまっとうな答えしか返ってきません。
でも、その年の冬を越して次の夏を迎えたとき、身をもってその答えを知りました。というのも、英国では「次にお日さまに会えるのはいつ?」と思うような、暗くジメジメした冬が1年の半分近く続くのです。だからこそ、夏の間に可能な限り日光を浴びておくことが、人々にとっての責務なのです。なにせ短い夏の間に、半年分の日光を体内蓄積する必要があるのですから。
「又、夏の期限が余りにも短いのを何とすればいいのか」 吉田健一の訳したシェイクスピアのソネットの一文。英国で冬を過ごしたことのある人には切実さをもって響きます。今では私も気温20度超えと聞けば、キャミソールに短パンで公園の芝生に寝そべっています。