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お客さまは神様じゃない
「お客さまは神様です」の精神が徹底されているせいでしょうか、日本ではあらゆるビジネスが丁寧で迅速。電車や地下鉄は時刻表通りに発着が当たり前。どこのお店に行っても、敬語で話しかけられ、丁寧なお辞儀をされる。このような日本のカスタマー・サービスが世界一だという評判は英国にも伝わっています。
「お客さまは神様です」のフレーズの生みの親ともいわれる歌手、三波春夫さんのウェブサイトによれば「『お客さまは神だから徹底的に大事にして媚びなさい。何をされようが我慢して尽くしなさい』などと発想、発言したことはまったくありません」と記載されています。とはいえ日本では、この言葉が一人歩きして、どんなサービスも「お客さまは神様だから徹底的に尽くす」をモットーに社会が動いているように思えます。私がそれに気付いたのは、英国に住むようになったからなのは間違いありません。
英国では、客もサービスする側も対等です。というよりむしろ、お客さんの側はお店のスタッフに対して丁寧に接するのがマナーだと考えられています。
例えばレストランに行って注文をするとき、お客さんは「○○をください、please」と必ず最後に「please」を付けます。それがミシュランの星付きレストランだろうが、ファストフードの店だろうが関係ありません。私がそれを覚えたのは、夫やその友人たちと頻繁に食事に行くようになってからでした。誰もが一人ひとり注文するたびに「please」を付けているのを見聞きして、お店の人に何かを頼むときには、必ず「please」を付けなければいけないのだと知ったのです。
さらに、注文をし終わってメニューを店員さんに手渡すときには、必ず「 Thank you」と言います。注文したものが運ばれてきたときにも「ありがとう」とお礼を言うのはお客さん側です。「お店の人に対してすごく礼儀正しいんだね」、付き合いだしてすぐのころ、夫にそう言うと「日本ではお店の人に『ありがとう』を言わないの?」と驚いたように聞き返されてしまいました。
また、英国では、何かの修理をお願いしたとき、その人が約束通りの時間に来ないことがよくあります。そんなときでも、英国の人々は怒るどころか、「 紅茶はいかが?」とにこやかに迎え入れます。それについて英国人に質問すると「怒っても仕方ない」「怒ってはいても、相手に向かって怒りを向けるのは失礼な態度」という答え。つまりこの国では「自分がお金を払う客だから偉い」という発想はないのです。客とサービスする側が対等でフラットな関係。だからこそ、客側もマナーよく振る舞うことが当然。今ではこの英国流が心地よく思える私ですが、英国にお住まいの皆さんはいかがでしょう?