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日英のトイレ事情
今回はちょっと尾籠(びろう)な話となること、最初にお断りさせてください。
ロンドンの語学学校に通い始めてすぐ学んだのが「トイレの音を消すために流すのは厳禁!」という事実でした。日本では公衆トイレであっても、たいていが清潔に保たれ、どこにでもウォシュレットがありますよね。その上、消音のために「音姫」と呼ばれる、トイレ用擬音装置が設置されています。最近では、トイレに入った途端に音が自動で鳴るオート・タイプを設置してあることも珍しくありません。でも、英国ではそんなトイレに出合うことはほとんどありません。ましてや私が英国暮らしを始めたころはなおさらのこと。ところが、渡英してすぐの私は、日本にいたときの習慣で、トイレで用を足すときに、消音のためトイレに腰掛けてすぐにレバーを押して水を流してしまったのです。当時はまだ日本でも「音姫」はどこにも常備というわけではなく、消音には実際の水を流していることが多かったような気がします。ところが大変なのはその後でした。1度水を流してしまうと、すぐに2度目を流すことができないのが英国のトイレなのです。つまり、水がタンクにたまるまでは、用を足した後でもじっとトイレの個室内で待っていなければならないのです。
この失敗をしてから気付いたのが、英国女性はトイレの音を気にしていないということでした。英国では「音姫」が設置されていなくても、誰もちゅうちょせずに用を足します。この国の女性たちは、自然現象の音を隠そうとはしないのです。トイレ内からはいろんな音が聞こえてきますが、誰も気にしている様子はありません。すると、不思議なことに、私自身の2度流しの習慣もあっという間に消え去ってしまいました。ところが、日本に一時帰国すると、今はもう自動の「音姫」常備が当たり前で、それが当たり前になると今度は英国に戻った後には、トイレに入ってもなんだか物足りなくなるから不思議です。とはいえ、あっという間にまた音無しに慣れるのですが。
トイレについてもう一つ日英の違いは、夫に指摘されて気付いた「せっけん」問題。というのも、英国ではどんなさびれた公衆トイレでも、手洗い場には必ずハンド・ソープが設置されているのですが、日本の家庭のトイレタンクにある手洗い場には、ほとんどの場合せっけんが置かれておらず、水だけで手を洗うようになっているからです。思い出せば、私が日本に住んでいたころは、確かに水だけで洗っていました。英国人からすると、これは極めて不衛生ということになるようです。ただ、新型コロナのおかげで、日本でもトイレ後にもせっけんを使った手洗いが推奨されて、この状況は変更されているかもしれませんね。