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夕飯メニューは毎週同じ?
「今日の試合がこんなに遅くまでかかるとは思わなかったから困ったな。今からじゃローストを調理する時間がなさそう」。
夏休み前、息子の所属するフットボール・チームが参加したトーナメントのあった日曜日。決勝まで勝ち進んだために最後の試合が午後6時を過ぎると聞いたとき、応援に来ていたチームメイトのお母さんが言いました。
ローストとはサンデー・ローストとかロースト・ディナーと呼ばれるもの。英国では、日曜日にローストした肉(ビーフ、チキン、ポーク、ラムなどメインとなるものはさまざま)と、ロースト・ポテトやニンジン、芽キャベツなどの野菜を付け合わせた料理を食べるのが伝統です。とはいえ、核家族が増え、日々忙しい現代では、わざわざロースト・ディナーを作る家庭も減っていると聞いていました。それなので興味が湧いて、ほかのお母さんたちにも聞いてみました。すると、6人のうち5人が毎週サンデー・ローストを作っているというではありませんか。さらなる好奇心から「どうして毎週サンデー・ローストを作るの?」と聞く私に、どの人も不思議そうな顔をして、「子どものときからずっとそうだから」「サンデー・ローストを食べたくない人なんていないでしょう?」と答えてくれました。そして逆に「日本では日曜日に家族そろって何を食べるの?」と聞き返されたのです。
質問されてみると、日本に住んでいたときに、「日曜日には○○を食べる」という習慣はなかったことに気付きました。少なくとも私の育った家庭では、日曜以外でも特定の曜日に特定のメニューを食べるということは決まっていませんでした。
一方、英国では、日曜日のサンデー・ロースト以外にも、金曜日にはフィッシュ&チップスを食べるという伝統もあります。こちらはロースト・ディナーほど根強く残っている習慣とはいえませんが、わが家でも時々フィッシュ&チップスを食べるのは、金曜日がほとんど。元はキリストが十字架にかけられた金曜日には肉を食べる代わりに魚を食べるというキリスト教の教えに基づくものだといわれますが、宗教に関係なく、英国の人々の食生活の習慣として根付いているのは間違いありません。
「毎週同じものを食べるなんて、飽きてしまわないのかしら?」と英国に来てすぐのころの私は思っていました。でも、英国の人に言わせると「日曜にはロースト・ディナーを食べるから、1週間に一度は必ず家族一緒の時間を過ごすことができる。それが大事なんだよ」とのこと。
ところが、最近の光熱費の高騰で、オーブン使用を控えて、ロースト・ディナーをやめる家庭が増えるとのニュースが。経済問題が、英国における夕食の伝統を変えてしまうのでしょうか。