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赤信号、みんなで渡れば?
皆さんは、日本に一時帰国した際、どんな場面で「自分には英国暮らしが染み付いてしまったなー」って、感じますか?
ここでの暮らしが今年で20年(!)になった私は、日本で道路を渡るときにいつも「ああ、私は日本の人たちとは違う行動をしている」と英国の習慣が身に付いてしまっていることに気付きます。というのも、信号が赤であっても、左右を確認して車が来なければ、ついつい赤信号を無視して渡ってしまうのです。一緒にいる母親に「あんた、信号無視したらあかんやろ!ここは日本やに」と注意されるので、最近では母が横にいるときには日本流を守ってはいますが、例えば別の外国に行ったときにもやってしまっています。
1980年代に、「赤信号みんなで渡ればこわくない」という言葉が流行語になりました。2021年12月に発売された三省堂国語辞典 第八版にまで収録されているというこのフレーズ。これは、当時人気だったお笑いコンビのツービート(今は映画監督としても有名な北野武さんと相方のビートきよしさん)が使ったことで大変はやった懐かしいギャグです。辞典によれば、その意味は「おおぜいでやれば、悪いことも堂々とできるものだ」となっています。つまりは、集団と同じ行動をすること、みんなと同じことをすることで安心を得ようとする心理を表しているともいえます。心理学では「同調効果」といいますが、コロナ時代におけるマスクの着用状況を見ていても、日本ではよりその影響が強いのかもしれません。
英国の社会においても、もちろん同調効果がないとはいえません。例えば、赤信号で道を渡ることにしても、英国では日本とは逆に、車が全く来ないのに信号が青に変わるまでじっと待っている方が、かえってほかの人と違う行為をしている、という違和感を感じます。だから、隣の人がささっと赤信号を渡ったら、つられて(真似して)渡ってしまう、という無意識の心理が働いているのかもしれません。もしかしたら、だからこそ私はこの国に住むようになってから英国人の様子を見て、そこから学んで(真似して)しまって(笑)、今や赤信号であっても、道路を渡ってしまうのに違いありません(もちろん、左右の安全はよーく確認していますよ!)。
ちなみに、世界で最初に道路用信号機を利用したのは英国です。ロンドンの国会議事堂の外に、ガス灯火式の信号機が設置されたのは1868年。ガス爆発の事故のため、数カ月で運用は中止されたようですが、当時は警官が手動で赤と緑を入れ替えていたとのこと。警官が目の前にいたときは、さすがに英国でも赤信号で渡ってしまう人はいなかったかもしれませんね。