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英国テーブルマナーあれこれ
「うちのエイデンは、私がラーメン食べるときに麺をすする音をすごく嫌がるの。だからもう家では麺類は食べずに、1人でロンドンのラーメン屋に行ったときに楽しむことにしてる」。
ずっと前のこと、英国人を夫に持つある日本人女性がそう話してくれました。わが家では、お味噌汁やラーメンを家で食べるときに私が盛大に音を立てても、英国人の夫や子どもたちが文句を言うということはないので、そこまで重大なマナーという実感がありませんでした。とはいえ「スープやヌードルを食べるときに音を立てない」というのは、英国の人たちの間では当然のこととされています。
そして気付いたのは、音を立ててはいけないというだけでなく、むしろ英国の人にとっては、ラーメンを食べるときに音を立てたくても、立てられないらしい、ということでした。
というのも、家族そろってラーメンを食べているとき、夫が私を真似てわざと音を立てようとしたのですが、「ムズカシい」と言って、1度トライした後は、無音のまま食べていました。また、娘は日本でうどんを食べた際に、「日本人だから」と言って、一生懸命麺をすする練習をしていて、その健気さにわが子ながらぐっと来ると同時に、英国人には音を立ててすすることは、簡単ではないのだと改めて感じたのでした。
テーブルマナーについていえば、カトラリーの使い方も私にとっては興味深いものです。日本との違いを1番感じたのは、新婚時代の夕飯に日本のカレーを出したときのこと。日本ではカレーを食べるのはスプーンが当たり前だったので、テーブルにはスプーンを並べたのですが、夫は「ナイフとフォークを使ってもいいかな?」と私に聞いてきたのです。「もちろん食べやすいもので食べていいよ」と言うと、夫はナイフ&フォークで器用に(と、当時の私には思えた)カレーを平らげました。郷に入っては郷に従え、と思い、私も夫を真似してナイフとフォークを使ってみました。すると、スプーンだとうまくすくえない最後の一口を簡単に口に運ぶことができると分かり、以来、私も英国式で日本のカレーを食べています。
ちなみに、英国ではライスを食べるときにフォークの背中にのせて食べるのがマナーだといわれますが、上流階級の正式なマナーでは、ライスだけでなく食べ物はフォークの背側にのせるのだそうです。夫も子どものときはそう教わったそうですが、今はそういう食べ方はしていません。「マナーより、食べやすさと食事を楽しむことの方が大事」と言いますが、もしかしたら上流階級へのアンチテーゼの意識からかも? と思わないでもありません。