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「お水が硬い」ってどういうこと?
「マミ、お水を飲むときはここに入っているのから飲んでいいからね」。
ロンドンの下宿先で、初めてキッチンの使い方を教えてもらったときに、ランドレディーが言いました。指差したのは、透明の大きなジャグ。そう、ブリタの浄水器です。
日本では東京、中目黒の古いマンション住まいだった私は、水道水がまずいので、いつも近所のスーパーに2リットル入りのポリタンクを持っていき、そこで浄水された水を買っていました。でも、自宅で浄水器を使っているのを見たのは20年前のロンドンが初めてでした。「水道の水は飲んではいけないの?」と聞くと、「もちろん、飲んでも大丈夫。私も紅茶を入れたり、料理をするのには水道の水を直接使っているから」とランドレディーは教えてくれました。
そう言われて、水道水を電気ポットで沸かしては、英国人家族を真似てしょっちゅう紅茶を飲むようになった私ですが、しばらくして、ポットの中が白く汚れていることに気付きました。最初は気にしていなかったのですが、ある日、ポットを洗ったときに、底にこびり付いていたその白いものが剥がれて出てきたのを見てぎょっとしてしまいました。
「これは何?」と聞く私に、ランドレディーが申し訳なさそうに「ごめんね、最近、ポットのライムスケールを掃除するのを忘れてた」と言いました。「ライムスケール?」初めて聞く言葉に、部屋に帰って電子辞書を引くと「石灰の水垢」とありました。ロンドンの水は硬水のため、こうした水垢がこびり付いてしまうのだというのです。ロンドンの水は硬水だったと改めて気付き、以前、英国好きの友人が「英国で飲む紅茶がおいしいのは、水が硬水だから」と言っていたのを思い出しました。
とはいえ、英国に来て紅茶の専門家に取材した際には、「紅茶をおいしく飲むには軟水の方がお勧め」と言われた記憶があります。そんなことを思っていたら、ヨークシャー・ティーというブランドには軟水用と硬水用で別々のティーバッグを製造、販売していると、在英歴の長い日本人の友人に教えてもらいました。
それを聞いてさらに驚いたのは、英国の水道水はてっきり硬水だと思っていたら、英国全土が硬水ではなく、地域によって硬水、軟水が分かれているということでした。
実際、義父母が住むイングランド南西部デヴォンは軟水地域のため、「洗剤の量は半分で済むし、ライムスケールを掃除したことがない」とは義母の弁。掃除をサボって、ライムスケールをちょくちょくこびり付かせてしまう私としては、軟水地域がうらやましい気がしています。