#22 乳酸菌を使った英国唯一の生バター
かつて英東部のサフォークは「バターの中心地」と呼ばれるほど乳製品が有名で、同エリアにある町バンゲイには、当時の名残を感じさせるドーム型の建物がある。その昔、このドームのそばでチーズや卵、バターなどが販売されていたことから、ドームは「バタークロス」(Butter Cross)と呼ばれ、その愛称は現在も変わらない。当時の勢いは失われてしまったものの、湿地牧草地が広がる豊かで美しい田園地帯は今も変わらず存在している。
そんなバンゲイの地に、バター、チーズ、スキール(高タンパク低脂肪のヨーグルトのような乳製品)などを製造するフェン・ファーム・デアリはある。クリクモア夫妻が中心となって営んでいるこの事業は、最近の潮流に合わせ、環境に配慮し、持続可能な方法で乳製品を作っている。2人が目指すのは、酪農家の新しい生き方を切り開くこと。2人は最高のアルチザン乳製品を生み出すことで、ほかの酪農家たちが多角的なビジネスを進める手助けになると考えている。
そんな努力の末に生まれたバンゲイ・バターは、バンゲイにかつての名声を取り戻させた、といっても過言ではないほどの高品質の生バターだ。タンパク質が豊富に含まれ、リッチなテイストが特徴のモンベリアルド種の牛とホルスタインの搾りたてミルク、乳酸菌などを使い、手作業で作られた同商品は、英国唯一の生バターとして知られている。クリーミーなバターだが甘さは控えめで、どちらかというと野趣に富んだ風味。自然そのものの味がする、という表現がぴったりで、スーパーマーケットの商品とはひと味もふた味も異なる。サワー・ドゥ・ブレッドやティーケーキに塗って楽しむのがお勧め。
ゴールドの紙に包まれた美しいバター
3 June 2021 vol.1580