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Thu, 28 March 2024

NHS 現役看護師が語るコロナ時代の医療

本記事に掲載の内容は執筆者個人の見解であり、組織の公式的な見解を示すものではありません。


ピネガー由紀
ピネガー由紀
大学病院で働く現役NHS看護師、フリーの医療通訳者。日本での看護師経験はなく、成人してから義務教育(GCSE)を経て、2013年マンチェスター大学看護学部卒。正看護師として、外科部門で病棟、手術前アセスメント、入院管理、学生指導などを担当。2020年4月から感染状況により新型コロナウイルス感染病棟に招集をされている。自身のYouTubeチャンネルでは医療英語や看護師の日常を発信。
YouTubeチャンネル:イギリス現役看護師Yuki

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患者宅訪問のガソリン代はスタッフの自腹

私の病院ではソーシャル・ディスタンスのために設置されていたパーテーションが5月いっぱいでほとんど取り除かれ、外来エリアや検査室、手術件数などはコロナ以前と同様の患者収容率に戻りました。患者の家族付き添いも制限が大幅に緩和され、院内も着々と通常運営に戻りつつあります。やっと訪れたコロナ以前の日常ですが、一方でここ数カ月の急激な物価上昇にため息をつく方も多いのではないでしょうか?今回は急騰するガソリン代とNHSスタッフが直面する問題について書いてみます。

「なぜ英国の病院はこんなに入院日数が短いの?心配なんだけど」。皆さんはこんな話を聞いたり、実際に経験をされたことはありませんか。例えば普通分娩で出産をして母子ともに問題がなければ、出産当日に退院することは珍しくはありません。一般患者であれば、できるだけ早い退院を目指します。全身麻酔でも簡単な手術ならば手術当日に退院をさせます。これは「患者は可能な限り自宅ケアに集中できるように」というNHSの根本的な考え方に基づきます。そのためNHSでは病院医療よりも地域医療に力を入れ、予算も優先的に組まれます。英国では専門医よりも一般医(GP)の数の方が多いことは世界的に知られています。

さて、地域医療でもNHSはさまざまな医療サービスを提供していますが、その中には患者宅を訪問する仕事も数多く含まれています。身近な例としては、英国で出産や育児を経験している方なら助産師や保健師が思い浮かぶでしょうか。

訪問看護師は、訪問分野の中でも中心的な役割を占めています。ほかには在宅診察をするGP、高齢患者などの在宅療法を支援する理学療法士、作業療法士などの職種が含まれます。患者が自宅で自力で生活を続けるために必要不可欠な地域医療のスタッフですが、今は高騰するガソリン代の問題に直面しています。ほとんどのNHSスタッフは、患者宅訪問をする際に車が貸与されることはありません。事務所から患者宅の訪問であっても自分の車を運転し、後で走行距離のマイレージ代が支給される仕組みとなっています。現在、国の基準で1マイル56ペンス(およそ1.6キロメートル90円)が支給されますが、地域によって差があります。保険代や減価償却を考えると、以前からマイレージ支給額だけでは足らず、不足分は自腹を切るケースが多かったのですが、現在のガソリン価格の高騰により、この割合が増加の一途をたどっています。

私は仕事柄、訪問看護師へ患者訪問を依頼する紹介状を出します。インスリン注射や点眼薬などで同じお宅に1日3〜4回訪問することもありますが、訪問看護師から「訪問回数の制限通告と患者側で家族や近所に協力を頼むように奨励してほしい」と病院側に連絡が来ました。訪問看護師はもともと人手不足の分野ですが、経費である患者訪問のガソリン代の負担まで増えれば、さらに離職数に拍車がかかるでしょう。これは患者訪問をするNHSスタッフ全員に当てはまることです。結果的にそのしわ寄せは患者さんにいってしまいます。患者さんのためにも経費の自己負担の心配なく、スタッフが安心して仕事ができる待遇になることを願ってやみません。

 
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