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Sat, 23 November 2024

NHS 現役看護師が語るコロナ時代の医療

本記事に掲載の内容は執筆者個人の見解であり、組織の公式的な見解を示すものではありません。


ピネガー由紀
ピネガー由紀
大学病院で働く現役NHS看護師、フリーの医療通訳者。日本での看護師経験はなく、成人してから義務教育(GCSE)を経て、2013年マンチェスター大学看護学部卒。正看護師として、外科部門で病棟、手術前アセスメント、入院管理、学生指導などを担当。2020年4月から感染状況により新型コロナウイルス感染病棟に招集をされている。自身のYouTubeチャンネルでは医療英語や看護師の日常を発信。
YouTubeチャンネル:イギリス現役看護師Yuki

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「無料」とは限らないNHS病院

NHSは患者さんにとっては無料の「公営病院」とも表現されますが、実際には半民半官のような状態であり、国から支払われる診療報酬が収入基盤となります。新型コロナウイルスの影響でソーシャル・ディスタンスのために患者受け入れ数が制限され、診療数が減少していることはニュースを通じてご存知かと思います。これは、病院の収入源が減ったことも意味します。飲食店でお客さんを制限していた時期に売り上げ減少が起きたのと全く同じセオリーです。

手術を待つ患者数が膨大に増え、手術数をこなすことが各病院の最優先事項であると以前の記事でも書きました。これは第一に患者さんのためですが、病院の収入確保のためでもあるのです。NHS病院とはいえ、国に経済面を全て頼れるわけではありません。「診療報酬がほしければ仕事をしなさい」という理論なのです。

ところで皆さんは、NHS病院の中でもプライベート診療*が行われているのをご存知でしょうか?「プライベート診療はプライベート病院で行うものではないの?」と思われる方も多いかと思いますが、実際はNHS病院内でも行われており、そしてこれを推奨しているのは、ほかでもない国なのです。「皆に無料で」「診察優先順位は患者の経済力ではなく病状によって」がNHSの創立理念ですが、高齢化社会などの背景もあり、国が全ての医療費を負担することに限界がきています。私が看護学生時代だった10年前の大きな改革**で「NHS病院のプライベート収入の割合を病院全収益の49パーセントまで認める」と決定がでました。全収益の49パーセントを超えなければ病院は好きに稼いでOKと、国から各病院へ「副業収入」の推奨があったのです。その背景には「国の診療報酬ばかりに頼るのではなく、病院も自力で稼ぐ努力をしなさい。法整備はしてあげるから」という国の本音があります。もちろんそれ以前からもわずかな件数のプライベート診療はNHS病院で認められていましたが、10年前の「副収入の推進」は英国内でさまざまな議論を呼びました。病院全収益のうち最大49パーセントがプライベート収入であるならNHS病院と呼べるのか? という意見もありました。確かに皆さんも全収入のうち副業から得た収入がその半分も占めているなら、どちらが本業なのか微妙な気がしますよね。

「プライベート収入」は、診療はもちろん、病院の駐車場代や産後の母子の個室代など、病院によってさまざまなものが含まれます。例えば健康な妊婦さんの超音波の回数は基本的に2回ですが、それ以上は有料で提供している病院などもあります。NHS病院にとって長年の問題が、予約時間に連絡なしで来ない患者さんです。患者さんにも都合があるので、早めに連絡をもらえればキャンセル分をほかの患者さんに回せるので問題はありません。ただし正当な理由がなく無断で予約に来ない患者さんはDNA(Did not attend)印が押され、何らかのペナルティーが科されます。どのような理由であれ患者診療ができなかった以上、NHS病院は診療報酬を受け取れません。その結果、経済的損失を埋めるためにプライベート診療に頼ることになります。NHSを守るためにも患者さんには予約のルールを徹底してもらうようにしています。

*患者(保険も含め)が診療費を10割負担する医療。国が10割負担のNHS診療とは正反対のシステム
**Health and Social Care Act 2012

 

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